Nissan truck at an auto show

カルロス・ゴーンの実際の罪は「空気を読み」損なったことか

日産のCEOカルロス・ゴーンが勾留されたことにビジネス界全体が衝撃を受けた。まだ正式には告発されていないものの、容疑は「重大な不正行為」だとされている。出来事の正確な性質に関する詳細がこの数日で明らかになってきており、事態はゴーンの退任後に支払われる繰延報酬に主として関係していることがわかってきた。この繰延報酬が公の有価証券報告書に記載された報酬額に含まれていなかったというのだ。

繰延報酬は怪しげではあるにせよ、米国の役員報酬としてはありふれた特色である。私の知る限りでは繰延報酬は日本の報酬としては一般的な形態ではなく、そのため有価証券報告書においてそれをどのように処理するべきかに関するはっきりとした規定が存在しないということは十分にあり得る。当時、ゴーンは報告書に繰延報酬を含めなかったことについて自分は適切に行動したと同僚に語っている

繰延報酬は単に報酬を将来に繰り延べるものであることから、ゴーンはこれを高報酬に対する日本の世論からの非難を避けつつ、自身の同輩と思われる人々(欧米の自動車企業のリーダーや、欧米の役員全般)と同程度の報酬水準にする手軽な方法であると考えたのかもしれない。日本のメディアは高報酬の役員に関する有価証券報告書を詳細に調べることで知られてもいるからだ。しかしゴーンはこの報酬テクニックが一般的ではない日本においてこれを用いたことで、意図せずして法に触れた可能性がある。日本の法ではこの種の報酬が報告されるべきであるかどうかに関しては明記されていないと報じられている。

また、どうやら特別な株価連動型インセンティブ受領権も問題とされているようだが、これも日本では一般的ではないと私には思われる。したがって、これもまた証券取引所に報告すべき報酬を定める諸規定において十分に論じられていない可能性がある。

当然ながらゴーン1人が自ら証券取引所への報告の手続きをしたわけではなく、したがって有価証券報告書に記載するにあたって、件の繰延報酬とインセンティブ報酬をどのように適切に処理するかを決定するのは日産の責任ではないかとの疑問が生じる。この観点からすると、この問題はむしろ日産の人事部と法務部による不適切な処理の事案と思えてくる。

ゴーンの事件を通じて、多くの欧米の人々が日本の刑事司法システムの仕組みを学びつつあり、またおそらく多くの日本の人々が欧米の役員報酬の仕組みを学んでいる。私自身は欧米の役員がこのように極端な金額を受け取るのはよくないことだと考えているが、しかしそれが相場であるというのが事実だ。もちろん日産の従業員や一般の日本人からすれば、このような高額報酬を望むことはあまりにも欲深いことだと思えるだろう(特に、ゴーンの報酬は日産の他の役員たちよりも非常に高額だったと報道されているのだから)。ゴーンはレバノンやブラジルの高級住宅など、個人的支出での会社資産の乱用によっても告発されている。またパーティーのためにヴェルサイユを貸し切るなどの、彼の贅沢な生活ぶりに関しても次第に明らかになっている。不適切であるにせよないにせよ、これらは一般的な日本人の目にはよく映らないだろうし、これらを知った日産の従業員の間には憤りが生じているようだ。

日産の経営陣はゴーンに対する「我慢の限界に達していた」と報じられている。それは高額報酬や法外な暮らしぶりだけではなく、ゴーンの経営スタイルや日産の戦略的な方向性に関連する問題(ゴーンが計画していた日産とルノーの合併への反発を含む)によるものだという。また、2000年代の日産の復興の大部分がゴーンの名誉となっていたことへの憤りや、ゴーンが「強すぎる権力」を持っていたことへの懸念も見られる。

これらの懸念は妥当であったかもしれないが、しかしこのような劇的な逮捕は、問題のある役員を処理するには幾分過激なやり方であるように思える。日産がこの問題に取り組むにあたって、ゴーンを警察に通報する以外のやり方があったであろうことは間違いない。しかし日産のこの行動は、私が日本企業にコンサルティングをする中で観測してきたよくあるパターンと一致している。典型的な筋書きは以下のようなものだ。日本人の経営者が日本人ではない従業員の行動や成績に不満を持っている。経営者は直接的な意見を述べるよりも、微妙なほのめかしによって自らの不満を表明する。日本人ではない従業員は、日本人従業員にはありふれている「空気を読む」(微妙な兆候を察知する)技術を持っておらず、経営者のほのめかしに気づかないままに、望ましくない行動や成績を続行してしまう。これが続くことで、時とともに日本人側に苛立ちが募っていき、最終的にその苛立ちは唐突な予期せぬ解雇などの劇的な事態において噴出することとなる。

このことから、ゴーンはいったい今までにどれだけのほのめかしを見逃してきたのか、そしてそれによって日本人の日産経営陣に、彼を止めるにはそのキャリア全体をおしゃかにするしか手段がないと思わせることとなったのだろうかと私は疑問に思っている。