「イノベーション劇場」に終わらせないために:日本企業が直面する本当の課題

昨今、日本企業では「イノベーション」というキーワードが好んで使われ、スピーチやウェブサイト、アニュアルレポート、さらには部署名にも頻繁に登場します。しかし、多くの日本企業は、自分の会社に使われている管理方法と企業風土がイノベーションを促進するどころか、むしろ潰してしまっていることに気づいているのでしょうか。

 実際、日本企業の中にはそのことに気づいているところもあると思います。日本企業はイノベーション活動を「隔離」すべきであり、そうすれば新しいアイデアを封じ込める傾向のある本社の抑圧的な雰囲気から解放されて活動できる、という説を何回も聞いたことがあります。「既存事業から離れた場所をつくらないといけないのです」がよくアドバイスされています。このような考えに従って、多くの日本企業はイノベーション部門や「ラボ」を設立したり、スタートアップと協働するオープン・イノベーション・プログラムや、スタートアップに投資するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)部門を作ったりしています。

 日本企業がこうしたことをするのが悪いと言っているわけではありません。企業のイノベーション・ラボが革新的な製品を生み出し、それが企業にとって重要なものとなった例はたくさんありますし、スタートアップとのコラボレーションで素晴らしい成果を上げた企業もたくさんあります。私も500 Globalなどを通じてスタートアップのメンターを務めていますが、私がメンターをしてきたスタートアップ企業の多くは、日本企業とコラボレーションを行い、双方にとって実りある成果を得ていました。このように、スタートアップは日本企業にとって役立つ新しいアイデアの活力源であることを、私は目の当たりにしています。

 しかし、多くの場合、このような取り組みは単なる見栄の張り合いに過ぎないのではないかという気がしています。悪く言えば「イノベーション劇場」であり、見栄えがよく、企業の革新的な資格の証明として指し示すことはできても、実際の中身やインパクトには欠けるものです。多くの場合、イノベーション・ラボやCVCは、流行のモダンな家具を備えたオフィスを構え、スタッフはシリコンバレー風カジュアルウェアを着用しているので見た目は良いのです。しかし問題は、それらが本当に会社全体にインパクトを与えているかということです。そうである場合もあれば、そうでない場合もあります。

 私が懸念しているのは、イノベーションの唯一の源として、会社の主流から外れた活動や組織に頼るのは賢明ではないということです。というのも、シリコンバレーで長年働いてきた経験から、ベンチャー企業や独立したイノベーション部門や研究所に頼っても、あまりうまくいかないケースをたくさん見てきたからです。日本企業の多くは自前主義が非常に強いです。そのため、イノベーション・ラボが良いアイデアを思いついたり、CVC部門が魅力的な技術を持つベンチャー企業を紹介したりしても、中央の研究開発部門や関連事業部がそれを採用することに興味を持つのは難しくなります。また、たとえコラボレーションが始まったとしても、そのペースは遅々として進まないことが多いです。これは、ペースの速いベンチャー企業やイノベーション・ラボで働く起業家タイプにとっては大きなマイナスです。もう一つのよくある問題は、軽快なスタートアップのやり方と、伝統的な企業のお役所的な社内プロセスとの間の文化的な衝突があまりにも大きく、プロジェクトが失敗に終わることです。日本企業が米国のベンチャー企業を数百万ドルで買収し、親会社になった日本企業の業務全体にうまく統合することに失敗し、数年後に買収した会社を閉鎖することになったという状況を直接、何度か間近で見たこともあります。このようなことはひどい無駄であるのは言うまでもありませんが、残念ながら稀ではないです。

 私は日本企業がイノベーション・ラボやオープン・イノベーション・プログラムを閉鎖することを推奨しているわけではありません。しかし、日本企業はそれに加えて何か別のことをする必要があると思います。組織全体の働き方を変えるような何か。つまり、新しいアイデアを殺してしまうような組織から離れた安全な場所だけでイノベーションを起こそうとするのではなく、なぜ組織がそうなってしまったのか、それを変えるにはどうすればいいのかを考えてみることが必要です。

 私の新著『DX時代の部下マネジメント―「管理」からサーバントリーダーシップへの転換』では、日本企業がいかにして企業文化を変革し、よりイノベーションを促進できる環境を築くかについて、さらに詳しく解説しています。

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