ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング・ヨーロッパ代表・パニラ・ラドリン著
私は以前日本で顧客満足度調査の会議に参加し、あるプレゼンをとり行ったことがあります。イギリスから参加してくれたお客様にこの会議に関する感想を聞くと、、『日本人の参加者がとてもよく笑うので、驚きました。』とのこと。ちなみにこの方にとって日本は初めての訪問で、日本語も話さない方でした。
日本に馴染みのない英国人は、一般的に日本人は形式的で礼儀正しく、生真面目であるという印象を持っています。だからと言って、日本人にユーモアが通じない、と思うのは大間違いです。むしろ日本人がよく言うのは、『もうちょっと英国人も肩の力を抜けばいいのに。アフター5は特にね!』とよく言います。
前述の会議での私のプレゼンですが、笑いを得るために特に冗談を言ったり、ジョークをうまく飛ばせるほどの日本語力を駆使したわけではありませんでした。勿論、飽きれた失笑を買ってしまったのでも(そう思いたいです!)、皮肉な笑いを誘ったわけでもありません。実は皮肉めいた、ブラックユーモアというのは英国人の常套手段で、このようなユーモアはビジネスの席でも使われることがあります。ただ、一歩間違うと、異文化間の誤解を招くことにもなるのです。
ユーモアと言えば、ある英国人のマーケティング・ダイレクターの経験談を思い出します。彼は日系の自動車メーカーに勤めていたのですが、惨憺たる取締役会議に同席してしまった、と言うのです。この席で、オランダ人とドイツ人の取締役同士が議論を始め、それぞれの主義主張をぶつけ、白熱していたそうです。しばらく成り行きを見守っていた日本人の社長が、余りの状況を柔和すべく『ちょっとコメントさせてもらおうかね』と言うと、英国人の取締役であるマイクが、『社長のコメントは結構ですから』と言いました。この言葉に、社長は部屋から立ち去ってしまったのです。恐らく激怒寸前で尊厳を保つためにされた、苦肉の策ではあったのでしょうけれど。
この話を私にしてくれたイギリス人のマーケティングダイレクターは、社長の後をすぐに追いかけ、『マイクは冗談のつもりで言ったんですよ』と取り成そうとしましたが、社長は一喝。『それくらいわからないと思っているのかね、君!』続いて、『それに言っていい冗談とそうでないものとが区別できんのか!馬鹿者めが!』と怒り顕わでした。要は、マイクはちょとした毒のある冗談で状況緩和を図ったつもりだったのですが、完全に逆の効果を奏してしまったのです。この話を聞いた大概の英国人は肩をすぼめて、「マイクもちょっと鈍いよ」という返事が返ってきます。
そして私は、日本人は辛辣な冗談をよく理解するし、職場でも同僚同士でからかいあうのが日常茶飯事、と彼らが持つユーモアのセンスについて説明を加えるのです。でも、特にビジネスの場で、文化の違いを考慮しないでこの微妙な一線を越えてしまうと誤解を招いてしまうんです。確かに日本人を交えた席での『和の精神』、そして上下関係を尊重する伝統に対して、マイクの冗談は毒気が過ぎたのです。
話が最初に戻りますが、私の会議上での話しの一体何処が日本人出席者にとって面白かったのか、と自問しても、実は私自身、分からないのです。もしかしたら、話の節々に盛り込んだイギリス人に独特の茶目っ気や、少々自嘲的でもあるユーモアが受けたのかもしれません。自分を嘲笑できるユーモアのセンスというのは、イギリス人が誇る国民性なのですが、これは日本人にも通じるところがあるようです。どうやら皮肉っぽいジョークや駄洒落よりも、機転の利いた、自分を笑いのネタに出来るくらいのユーモアの方が国際的に通用するようですね。
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