ヨーロッパの日系金融サービス会社の人事責任者から、本社の監査委員会の面談を受けたという話を聞きました。その際に会社のパーパスは何かと繰り返し聞かれたのが不可解だったそうです。「会社のミッションとバリューは知っています。長すぎるので暗唱はできませんが」と、その人事責任者は言いました。

また、日系製薬会社の人事責任者からは、ヨーロッパの経営幹部チームを対象に、本社の意思決定に影響を及ぼす方法について研修してほしいと依頼されました。そのきっかけは、ヨーロッパの幹部の意見を集めることなく、本社がグローバルな従業員エンゲージメント調査を開始したことでした。適切に表現されていないと思える質問が調査にいくつか含まれていたそうです。

日本の会社が最近パーパスのことをよく話しているのは知っていましたが、ある顧客から「ヨーロッパにおけるパーパス」という研修について相談されたことで、その理由が分かりました。「パーパス」とカタカナで書かれているため、米国の経営コンサルタントが普及させたと思っていましたが、名和高司教授の2021年の著書『パーパス経営』に行き当たったのです。名和教授は、このコンセプトを表す言葉として「志本(しほん)経営」のほうが良いと思ったが、パーパスが好まれるようになったと説明しています。

残念なことに、日本の本社のスタッフは、海外のスタッフなら「パーパス」を自動的に理解できるものと思っています。もちろん、英語の話者であれば言葉は知っていますが、これが日本ほど流行り言葉になっていません。

しかも、海外の社員は、名和教授が提唱する具体的な定義とプロセスは知りません。ただし、日本でも多くの会社が定義やプロセスを取り入れているとは言えなさそうです。

パーパスはミッションとは異なります。内側から来るものであり、トップダウンではないためです。ならば、パーパスを発見する段階が必要であり、これに海外拠点が含まれるべきです。従業員エンゲージメント調査もベンチマークを設定できるため重要ですが、やはり海外の幹部が最初から関与しているべきです。

前述の金融サービス会社もそうでしたが、多くの日本企業が単にミッションやビジョンを「パーパス」に呼び変えたことに、私はがっかりしています。結果として、「イノベーションを通じて社会に貢献する」のように一般的なものに終わっています。これでは、「ワクワク・ならでは・できる」という名和教授の規準を満たしません。エキサイティングで、ユニークで、日本と海外の社員に「これならできる!」と思わせることです。

帝国ニューズ・2024年5月8日

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