これまで日本企業に限らず多国籍企業の多くが、駐在員のネットワークに頼って、会社の文化を浸透させ、海外で起こっていることを把握してきました。けれども、日本企業は近年、シニアレベルの「グローバルな人材」、すなわち海外事業を切り盛りできる人材が不足していることを認識しており、現地採用の上級幹部に頼らざるを得なくなっています。
現地で採用される上級幹部は、コミュニケーションのプロセスが明確でなく、価値観やビジョンが共有されていないと、しばしば大きな不満を感じるようになります。日本の様々な部署から送られてくる同じ質問に何度も答えているうちに、自分が信頼されていないと感じ始めるのです。意思決定の権限がなく、変更を提案することもできず、日本の誰に支持を求めればよいのか、どのように切り出せばよいかも分からないと感じます。
このような問題は、欧米の多国籍企業ではそう頻繁には起こりません。たいていは、コンプライアンスや承認や報告のプロセスが、会社が買収あるいは設立された時点からとても明確にされているためです。また、会社の組織構造も、欧米企業では得てしてあまり違いがありません。このため、外国の子会社にいるマネージャーが自分と同等の役職者や主な意思決定者を見つけるのは、比較的簡単なのです。
以前に私が勤めた日系企業の欧州マーケティング部門で、ある提案をするに当たって、日本本社の様々な部署の然るべき担当者を見つけ、関係を築いて支持を集める必要がありました。欧米の企業であったなら、これは簡単にできたでしょう。本社に同様のマーケティング部門があり、その部門の長である上級幹部(常務レベル)がいて、戦略とビジョン、そして会社のブランドの責任を司っているからです。けれども、この日本の会社には、はっきりとしたマーケティング部門がありませんでした。コーポレート・ブランド室は、広報部のコンプライアンス機能だけのような存在で、ロゴが正しく使われているかどうかの確認業務を担当していました。宣伝部は、単純に事業部門がそれぞれに求めてくることを何であれやっていました。企業戦略部という のがありましたが、欧州の企業がやるようなマーケティング戦略とはまったく関係がないように見えました。
日本企業がグローバルに成功しようと思うのであれば、欧米の組織構造に倣って本社を再編する必要があると結論づけるのは、少しはばかられる気がします。しかし、「担当者」や「窓口」が何を意味するかをはっきりさせ、現地のマネジャーとやり取りをする本社の担当役職者が誰であるかを明確にすることはお勧めしたいと思います。こうすれば、現地に寄せられるリクエストが減り、現地のマネージャーが日本の担当者と信頼関係を築くのに役立つはずです。それを行ったうえで、価値観の共有とコミュニケーションのプロセスに進むことができるでしょう。
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