6. 夢を追う 【コラム:見る前に跳べ】

「どんなお仕事をされていますか?」とよく聞かれました。そんな問いかけに「お答えできますが、そのあと死んでいただくことになります」と私は答えたものです。「もちろん、冗談ですが」と笑顔で続けながら。しかしそれは、まったくの冗談ごとではありませんでした。当時私は防衛産業の通訳をしていました。クライアントとの訪問先でセキュリティ・ブリーフィングに参加することもしばしばありました。さまざまな国を訪問しましたが、中にはあまり安全とは言えないところもありました。「万が一訪問先で何かあった場合、防衛省が迅速かつ安全に我々を連れ出してくれる」、と言われていました。ゲット・スマートのエージェント99になった気分でした。

このクライアントから最初に連絡を受けた際、私は防衛産業の経験がないことを理由に、仕事をお断りしました。しかし彼は「ノー」という答えを受け入れませんでした。彼のいつもの通訳者の都合がつかなかったため、その代理として臨時の仕事のはずでした。しかし、この臨時の仕事のあと、私はその通訳者の代わりにこのクライアントの新しい通訳者に指名されました。自分の仕事に秀でていることは、ありがたいようなありがたくないような状況を導くといえるでしょう。

いろいろな場所に旅をして報酬も良かったのですが、この産業に関わることについて、常によい気がしていませんでした。「防衛 (Defense)」という言葉は、特にスポーツ番組で、ファンが巨大な「D」の文字と白い囲い柵(フェンス)を持って応援している(D-フェンス)のを見ると、なんとなく差し障りがないように感じます。しかし実際のところ、防衛には紛争や戦争が関与してきます。展示会に行っても、そこは戦闘車両と弾薬に溢れており、参加者の大半が軍事関係者でした。

日本国憲法第9条は、国際紛争の解決に軍事力を使うことを禁止しています。そのため、これまでの日本からの派遣(第二次世界大戦後)は、平和維持活動、人道支援、災害救援に限られていました。このクライアントとは10年間仕事をしましたが、彼が亡くなり、息子さんが事業を引き継ぎました。最近はこの会社との関係も以前より限定的になり、心が安らいでいます。防衛省(米国では国防総省)が永遠に存在し続けることは事実です。しかし私は、ジョンレノンがイマジンで謳ったように、世界が「殺す理由も死ぬ理由もないところ」になると想像することをやめられません。「私のことを夢想家だというかも知れません」が、いつかそこに辿り着けることを、私は祈ってやみません。

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