Totoro plushie photographed by some grass

日本の文化 ― 視覚から有形物へ

ロンドンで無期限ロングランが始まったミュージカル『となりのトトロ』のオープニング公演を息子と二人で観てきました。作曲家の久石譲氏とともにこの作品を共同制作したロイヤル・シェークスピア・カンパニーに招待されたのです。ロイヤル・シェークスピア・カンパニーが関与したというのは意外に聞こえるかもしれませんが、同劇団はこれまでにも『マチルダ』や『ウェンディ&ピーターパン』など子供向けのミュージカルを手がけてきました。

見回したところ、観客のほとんどは大人で、子供連れはごくわずかに見えました。私は息子が小さかった頃にスタジオ・ジブリの映画をいくつも観ました。その息子も23歳になりましたが、今回のミュージカルをとても楽しんでいました。ただ、劇場内の売店でお土産のTシャツがすでに売り切れていたのには相当ガッカリしたようでした。

私の隣に座った初老の男性は、西洋のミュージカルに比べて舞台展開がはるかにゆっくりしているのに気付いたと話していました。筋書きよりも感情や考えの表現が重要で、しかもそれらが言葉ではなく視覚的に表現されていました。

イギリスでは、シェークスピアの国でありながら、文学的な文化が失われて視覚的な文化に移行しつつあるという懸念が浮上し始めています。若い人たちは、本や雑誌を読まずにSNSで短い動画を観ています。年齢を問わず、注意力の持続時間が短くなっています。

一方で、デジタルに抗おうとする反応もあるようです。カセットテープやレコードのリバイバルと同様に、若い世代は映画のストリーミングに依存せずにDVDを買うようになっています。箱に入った有形物である点が受けているのです。

読書離れが進んではいるものの、日本の小説はイギリスで非常に人気が高く、なかでも本棚で目を引く美しい表紙の付いたコージー・ミステリーや犯罪ものの小説に人気が集まっています。

注意力の持続時間の短さや文学から視覚への移行が、私の提供している日本文化のトレーニングにどのように影響するのだろうかと考えずにいられません。20年前は、6時間の対面形式のセミナーが最も人気のコースでした。今では1時間半のコースをオンラインか対面、あるいはEラーニングの動画で提供することを要請されています。アニメーションを使ったEラーニングは、日本では一般的ですが、イギリスでは今も子供っぽいと見られています。

私も、トレーニングに有形物を追加する必要があるのかもしれません。Tシャツか、本か。これは悩ましいところです。

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