2013年3月16日 辞めていく社員を「卒業生」と考えること ― 門戸を閉ざさず「出戻り」も歓迎
最近、ビジネススクールの卒業15周年を記念した「反逆者」の同窓会に参加してきました。なぜ反逆者の同窓会などと銘打たれていたかというと、1997年のアジア通貨危機、2001年のドットコム・バブル、2008年のリーマン・ショックを経験した私たちは、とても倹約家で慎ましやかなグループだからです(億万長者になった人が1人か2人はいるという話もありましたが)。数千ドルもお金を出してどこかへ旅行したり、ホテルを予約したり、キャンパスでの公式の同窓会に出席するための寄付を募ったりすることはしませんでした。その代わり、有志数人がロンドンのクラブで比較的お金をかけないパーティーを企画したのです。
90人ほどの同窓生が反逆者の同窓会には出席しましたが、そのうち15年前の当時の勤め先に今も勤めている人は10%に満たないと見受けられました。当時、私をはじめ多くの人が、会社からの支援を受けてMBA課程に来ていて、なかには卒業後2年以上は会社に勤続するといった条件を付けられている人もいました。それが15年後に会ってみると、自分の会社を起こした人、競合他社に転職した人、なかには完全に職業を変えてしまった人もいるという状況でした。
私のように日本企業からの支援を得てビジネススクールに来ていた学生は、ごくわずかでした。残念ながら私は、日本企業の制度でビジネススクールに行かせてもらったものの、職場復帰後に会社が自分の活用方法を理解していないと感じて失望し、結局は辞めてしまった大多数の仲間入りをしました。
同様の不満は、MBA候補生とほぼ同じ年頃の時に勤めていた日本企業から海外転勤になったことのある若い日本人の人々からも、最近耳にしました。海外赴任中に多くのことを学び、体験し、多少の自由と責任も謳歌したものの、日本に帰国してみれば、以前と同じ国内向きの下っ端レベルの仕事に戻されたという体験談です。海外で身につけてきた見識やスキルには、ほとんど興味を示してもらえなかったというのです。ある会社から聞いたところによると、海外経験をした若手の80%前後は、日本の本社に戻って2、3年以内に辞めていくそうです。
日本企業は、この状況を欧米企業のように楽観視することができません。欧米では、このコストをある意味、業界に支払う会費のようなものだと考えています。つまり、将来の業界幹部を育てるための能力開発投資であって、その人材からいつか自社が恩恵を受けることもあると考えるのです。MBA卒業生のなかにはずっと勤続し続ける人もいれば、客先に転職して有用な人脈となる人、あるいは他社でさらに経験を積んだ後、より上級レベルの幹部として元の会社に戻る人もいます。
けれども日本企業では、海外経験者のほとんどが、日本にある外資系企業に転職していきます。つまり、そもそも彼らを海外に送り出した最大の理由であるグローバル化の目標が、かえって後退してしまうのです。
もしかすると日本企業は、外資系企業に転職していく社員を「卒業生」と考える必要があるかもしれません。退職後も連絡を取り合い、決して門戸を閉ざさず、数年後に彼らが戻りたいと希望した場合は、他の企業文化を経験して戻ってくる彼らを迎えられるようにするのです。それが実現して初めて、日本企業は真に多様なグローバル企業になることができるでしょう。
様々に異なる経験を有した人材が上級幹部レベルにいてこそ、性別や国籍、キャリアのバックグラウンドが伝統的なメインストリームとは異なる優秀な人材を、海外経験者の若手も含めて、採用・留保しやすくなるでしょう。