前回のエッセイを読まれた方から「もっと詳しく説明してほしい」とのご要望をいただいたので、今回はもう少しかみ砕いて説明します。
日本人の方は一般に、さまざまな理想をイメージとして持っていますが、それを言葉で明確に表現する習慣がありません。クライアントに「イメージはあるのですが」と言われ、それを言葉してもらえますか、とお願いすると「う~ん」と唸りがちです。これには二つの原因があるようです。
まず、イメージのすべてを言葉にしきれない、と感じられている場合。言葉にするということは、線を引くのと似ています。これであって、あれでない。線を引くことで取りこぼしができるような気がして、踏み切れないのでしょう。もう一つは、イメージがまだ曖昧で、それが本当に自分にとっての理想なのか迷っている場合です。いずれの場合も、自分の言葉で定義できていないと行動に移しずらいので、理想の状態に近づけません。
理想の理は「道理にかなった」という意味で、理想は「理に適う思い」です。理想は、言葉で表現することでワクワクし、それを現実に近づけるための努力をしよう! と思わせるものです。ですから、言葉で書いてみて、読んでみて、心に響くものを選びましょう。
この理想を探るために、私はクライアントに「どんなよい変化を望んでいますか? 現実味のない、夢のようなものでもいいですよ」と尋ねることがあります。最初の段階では、具体的な対策や手法よりも、その方の希望のエッセンスを掴みたいからです。
それを絞っていって、定義します。定義ができたら、英語で話している場合は、How might you get yourself to get there? と尋ねます。以前はwould を使っていましたが、Warren Berger のA More Beautiful Question を読んで以来、might を使ってクライアントの想像力に訴えるようにしています。日本語では「理想を実現するために、現実的かどうかはさておいて、いろんなアイディアを出してみましょう」。次に、クライアントが一番ワクワクするアイディアを、実行可能な行動目標にしていきます。
ものすごく忙しいアメリカ人のクライアントは、「もっとゆっくり落ち着いて働け」と言う上司から仕事が嵐のように降ってくるので、ストレスの権化となっていました。彼女は、ストレスを減らし意思決定力を高めるのを理想と定義し、そこへのステップとして、喜び(joy)を感じる瞬間を増やすことにしました。そして、彼女が選んだ行動は、「毎朝、家でコーヒーを飲む」です。小さなことですが、通勤する車の中やオフィスに着いてから飲むのではなく、家でコーヒーを飲みながら静かな喜びの瞬間を味わい、それから出勤することにしたのです。
部下と仕事を通じて人間関係を築くことを学ばれた方は、コーチング最後の日に、次の理想と行動目標を決めました。彼の行動目標は婚活のためのオンライン登録。追跡調査はしていませんが、出遭う人の幅を広げるのは、彼にとってとてもポジティブな変化です。
まとめますと、理想を言葉にし、実現のためのアイディアを多く出し、その中からワクワクするものを実現するための行動目標を作ります。理想は高くても(世界平和)、個人的なことでも(元気がでる部屋づくり)構いません。大事なことは、行動目標を作って実行し、理想に向かって生活・仕事をしているという実感を得ることです。
ここで、そんな手間をかけなくても、行動目標だけでも結果は同じだ、と思われる方がいるでしょう。理想をまず掲げる理由は、自分の日常の行動が、ご自分の理想につながっているという思いがあると、好ましい行動をとぎれとぎれでも継続するためのモチベーションになることです。
*河北新報にアメリカの日常に関するエッセイを書いています。ご興味のある方は、こちらへ。海外通信
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