3. 善は急げ・思い立ったが吉日【コラム:技あり!ことわざ】

前回取り上げた「急がば回れ」と、一見相反するようなことわざがある。「善は急げ」や「思い立ったが吉日」である。よく使われることわざなので、ご存じの方も多いであろう。それぞれ、「良いことは、思いついたらすぐ実行せよ。」「何かをしようと思ったら、その日が最良と思って、すぐに取りかかれ。」という意味である。

「善は急げ」の語源は、「善は急げ、悪は延べよ」という、仏典の言葉とされている。従い善とは、もともとは、宗教的・道徳的な善行を指していた。それがやがて、自分にとって良いことや、自分が良いと思ったこと全般を指すようになったようである。

「思い立ったが吉日」は、16世紀中期の謡曲「唐船」に由来する。ここに、暦における吉日、すなわち縁起の良い日を待つのではなく、自分が思い立った日を吉日として、思い切って船出しよう、という一節がある。その意気や良し。この一節が人々の共感を呼び、語り継がれる中で、ことわざとなって定着したようだ。

「善は急げ」も「思い立ったが吉日」も、明らかに迅速な行動を促している。その意味では、「急がば回れ」と確かに反対だ。ではこの一見矛盾するような関係、どう解釈すればいいのだろう?

ここを紐解くために、これらのことわざの意味を深掘りし、はたしてどんな知恵が含まれているのか、読者の皆様と共に考えてみたい。

まず、行動に移すこととは何か?それは、自分が良いと思ったことや、自分がやろうと思い立ったことだ。人から言われたことではない。自分の中からふっと出てくる何かである。何かとは、直観やひらめきと言っていいかもしれない。

直観もひらめきも、ある時突然現れ、すぐ消える。このような瞬間、誰もが経験したことがあるだろう。そして、あれもこれもと考え出すと、かえって動けなくなることも。なぜぱっと行動に移した方がいいのか?その理由は、この辺りにあるように思われる。

こう掘り下げてくると、「善は急げ」と「思い立ったが吉日」に含まれる知恵が、次第に明らかになってくる。私なりに言語化すると、こんな感じだ。「直観やひらめきは、忘れぬうちに即実行」「今やりたいと思ったことは、今やろう」「ん?ときたらぱっ!」

ちなみに英語圏には、Strike while the iron is hot.(鉄は熱いうちに打て)や、There’s no time like the present.(今ほど良い時はない)ということわざがある。両方とも、「よし、今やろう!」と思わせてくれる、力強い表現だ。

ではこれら古今東西の知恵、どうすれば実践できるのだろう?

私は、前回考察した「急がば回れ」に、その鍵があるように思う。鍵とはそう、目的地までの過程を楽しむ、という知恵である。どういうことか?

過程を楽しもうと思えば、ちょっと深呼吸して、自分の気持ちを感じる余裕が生まれる。気持ちに余裕があれば、ふとやりたいと思ったことを、すぐ行動に移すことができる。そしてそんな行動をしていると、さらに過程が楽しくなり、気づくと目的地に着いている。

つまり、「急がば回れ」の実践が、「善は急げ・思い立ったが吉日」の実践を可能にし、その実践がまた、「急がば回れ」の実践につながるということである。そんなことが?と思われた方もいるかもしれない。しかし何を隠そう、私自身が今まさに、このような循環を経験中なのだ。そしてこの楽しい循環が、思考の現実化の過程そのものではないか、と感じ始めている。

こんな気づきを、超コンパクトに言い表しているような格言がある。Festina lente(フェスティナ・レンテ)というラテン語で、英訳はMake haste slowly、和訳は「ゆっくり急げ」である。この矛盾する表現の中に含まれる知恵とは、もしかしたら、いつも気持ちはゆったりと、でもひらめきは急いで実行という、思考の現実化に必要な心得なのかもしれない。この格言、「悠々として急げ」という和訳もあるが、さて皆様ならどう訳し、どう解釈されるだろうか?

* この記事は、JBSDデトロイト日本商工会の会報、「Views」の2026年3月号に掲載されたものです。

関連記事



Privacy Overview
ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング

This website uses cookies so that we can provide you with the best user experience possible. Cookie information is stored in your browser and performs functions such as recognising you when you return to our website and helping our team to understand which sections of the website you find most interesting and useful.

Strictly Necessary Cookies

Strictly Necessary Cookie should be enabled at all times so that we can save your preferences for cookie settings.