自由と平等の民主主義の国・アメリカに黒人差別があることは、すでに多くの人が知っています。しかし、「黒人差別と闘い続けた人を5人挙げて」と言われて、何人が答えられるでしょう? さらに、各人生の内実まで知っている人はほとんどいないでしょう。この本は、アメリカ社会の中でクエーカー教の非暴力の立場から黒人差別と闘ったバイヤード・ラスティンの人生と思想を紹介しています。日本語訳が易しく、各章末尾の用語解説も丁寧で、とても読みやすい文章になっています。そのためすぐに「これは青少年に読んでもらいたいと意識して翻訳されたのだろう。10代に入れば読めるだろうか」と思いながら読み進めるうちに、その思いはいつの間にか消えていました。というのも、(差別について学んでいるつもりの)私自身が学ぶことが多く、引き込まれて夢中になっていたからです。特に「非暴力運動」については、根本から学びました。「非暴力」と言うと、皆さんはどんな状態を思い浮かべるでしょう? 私は「暴力を振るわれても、やり返さないで耐える」というようなイメージを持ちます。バイヤード・ラスティンの意味する非暴力は、「耐える」より「権力に真実を突きつける」です。具体的には、ボイコットやデモ行進、嘘を暴く、などの行動です。まして、銃社会のアメリカでは「家に爆弾を投げられたら、銃で対決し、自分を守る」という反撃行動は当然とされています。キング牧師でさえ、当初はその考えでしたが、バイヤード・ラスティンから教えられて学び、非暴力が運動に有効だと目覚めていきます。

 この本のおかげで、他にも、長年中途半端な知識でモヤモヤとしていた、黒人奴隷の逃亡を助ける組織「地下鉄道」についても明確に知ることができました。私は「セクハラ・パワハラ防止」などの研修を企業に提供していますが、講師でありながらも、常に「私の中に差別意識はないか?自分で気づかないうちに何気ない行動や言葉が差別につながっていないか?」と自身に問うようにしています。

 アメリカの黒人差別・性差別と闘ったバイヤード・ラスティンの人生を知ることで、自己の成長を促し、多様性を深めていくためにも、多くの人に読んで欲しい本と言えるでしょう。

            2022/5/19 小野田美紗子

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