ここで、私がまず最初に検証したいのは、企業理念と日英の会社の歴史的背景の違いです。ご存知の通り、人類最初の産業革命は英国で興りましたが、必ずしも最初が最良と同義語ではありません。これはロンドンの地下鉄が一つの例と言えるかもしれませんね。実際、私達が多くの失敗を重ねる事で、他の人が何かを学ぶことができます。

英国の産業革命の副産物として生まれた社会問題に対する意識は、未だに英国国民の心に影を落としています。例えば英国人は会社の経営者と聞けば、腹黒い金持ちの資本主義者をイメージするのです。のどかな田園風景を黒々とした不吉な工場に塗り替え(有名な英国の賛美歌エルサレムからの抜粋)、職場環境や健康には目もくれず、労働者を家畜のごとく酷使する悪代官として捉えてしまいます。

日本で後に始まった産業革命でも社会問題は起こったものの、日本は国家の近代化と、産業力・軍事力において西洋諸国にひけを取らない実力をつける為に精一杯でした。19世紀の終盤に成熟した日本の会社の企業理念は、企業は富国の為にあるという概念のもとにあり、これは20世紀初頭に設立され、社是7条の中に“工業を通じて国家に奉仕“を掲げる松下電器のような企業にも引き継がれていきました。そして第2次大戦後、日本は国を挙げて働きつめ、再び一流工業国に復興させ、”奇跡の日本経済発展“を遂げました。やはりその頃に設された企業、例えばホンダ技研などは、「社員の幸せと社会貢献」を強く謳っています。

それに対し、英国の産業革命以降の製造企業と社是を見てみると、往々にして社会貢献とか、社員の幸せという言葉は見当たりません。といっても、ごく最近は企業の社会貢献がファッショナブルな傾向になってきていますが。19701980年代に多くの伝統産業が打撃を受け、これまで自分達に良くしてくれていた会社が大幅な人員削減を決行していく中、人々の会社への信頼感と、労働階級としての誇りは消え失せてしまいました。炭鉱、鉄鋼、エンジニアリングといった産業で失職した人々は、俗語でMc Jobsと言われた、不安定なサービス業へと移行せざるを得なかったのです。

アングロサクソン資本主義における企業は、利益率や投下資本の株主へのリターンが目的の、株主中心主義と捉えられています。これに対し日本の会社は会社を支える基本要素は利害関係がまずは社員であり、次にお客様であり、社会であり、そして最後に株主であり、英国の会社は日本のステークホルダー型企業の在り方とその様相を異にしているのです。英国の顧客サービス担当者は、過去150年の階級社会で培養された恨みとか憤り、単純労働者の誇りの喪失感と、自分の雇用主は自分や顧客や社会の事なんか、本当はこれっぽちも考えてくれていないんだ、という混ざり合った思いで対応している訳です。とは言え、勿論全てがこのようなわけではありません。次回はまた違うケースを明らかにしてみたいと思います。

このシリーズは人材紹介会社のセンターピープルのご協力の上提供させて頂いております。

関連記事