この本は優れた日本下層労働社会のルポである。著者は、21年間に及ぶ日本滞在のうち10年以上を、零細企業の下請労働者として日本人と共に働いた。その間に、フランス人司祭の目を通して観察したこと、経験し、感じたことを生き生きと表現
している。まず、私が面白かったのは、労働司祭という職業があることだった。労働をしながらキリストの教えを広めていくのだ。
職業訓練を受けて来日 しているので、機械工としての技術や知識は、さすが専門家だとうならせる。過酷な現場で働く労働者の生活を通して表面に浮か
び上がってくる日本人の価値観や問題点も、押さえた表現ながら説得力がある。しかし、何よりもこの本を気持ち良く読ませるのは、著者の視点が、人間の基本的人権と
自由を守る立場から少しもブレていないためだ。誤解を招かないための慎重な、それでいて明確な、彼の主張は、人柄の温かさと共に、心に響く。彼が日
本の働く現場で最も嫌だったのは「残業」だったそうだ。その点は、エリートの立場にある外国ビジネスパーソンと変わらないようだ。
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