
Last Updated: 26 9月 2025 11. 在宅勤務に関する一考 【コラム:異文化の海を泳ぐ】
今回はコロナ禍を期に話題となっている在宅勤務について私自身の経験と感想を述べてみたいと思います。*
コロナ禍以前は日本の企業が従業員の在宅勤務を認めていたケースは非常に少なく、米国の日系企業でも同じ様な状況だったと思います。ある日本人から聞いた興味深い話をご紹介します。
彼は米系企業に永年勤めており米国の企業文化を十分理解しているように見受けられます。彼らも電話等によるリモート会議を行いますが、出席者全員が必ずしもオフィスから参加するとは限りません。時には外出先から、時には自宅、あるいは出張先のホテルから出席等様々で、会議の為にオフィスに戻るとか、出張中だから会議欠席という事はあまりありません。ある時彼と彼のチームが日本の会社と電話会議をしたそうです。この時も米国側の参加者のほとんどがオフィス外からの出席だったのに対し日本側は早朝にもかかわらず、社長以下全員がオフィスから出席したそうです。
何故こんな違いが出てくるのでしょうか? 私の目からは以下のように映ります。一つは、米国と日本の仕事への考え方の違いです。日本では仕事は皆が一緒にいるところで行うもの。会社の外で仕事をするというのは考えられない。何故なら仕事はチームワークで行うもので各人が単独で行うものではない。おまけにいつもみんなが同一行動をとるのが当然という風潮がある。一方米国では仕事は個人で行うもの、皆で論議する必要があればその時だけ集まればよい。従って仕事は必ずしも特定の場所で行う必要はない。仕事ができる環境があれば原則どこでもよい。わざわざオフィスに出社するのは時間の無駄である。
日本では通勤手当という制度がありますが、米国では一般的にこのような手当はありませんのでこちらの人から見れば時間の無駄だけでなく余計な出費につながるという気持ちが頭によぎるのは間違いないと思います。もう一つは社会文化の違いです。日本では何をするにも皆一緒、一人だけ他人と違うという事を認めたくない、一方米国では右に倣えという風潮は希釈で考え方、行動も個人の自由という傾向があります。
前段が長くなりましたが、ここからは私の実体験です。私はある日系製造会社カナダ工場のトップを務めた後、親会社の社長より退任して北米統括会社でSenior Advisorとして勤務してほしいと言われ米国に戻りました。こちらでいうAdvisorとはラインには入りませんが、結構重要なポジションであると思いそのつもりで異動しましたが、後になって気づいたことは、このポジションは日本の会社でいうと経営幹部が退任した後に与えられる顧問という肩書であり、早い話特に仕事は無いというのが実態で、私の場合もまさにその通りでした。毎日出社はしますが、定例会議に出席するわけでもなく与えられた仕事のほとんどは遠隔地にある工場とのやり取りでした。つまりオフィスでなければできない仕事ではなかったにもかかわらず毎日出社していた訳です。
そんな中、家庭の事情により自宅にいなければならなくなり、米国子会社社長に自宅勤務を打診したところ、彼は本社にお伺いを立てたうえで回答するとの事でした。数日後にもらった回答はこれまで前例がないので受け入れられないとの事でした。おそらく彼は私のケースを認めるとこれが前例になりほかにも同じようなケースが出てくることを恐れたのではないかと想像します。この時米国人の知人に意見を聞いたところ、会社の回答を信じられないといった顔で聞いていました。もちろん私の体験がすべてのケースに当てはまるとは思いませんが、一端は表していると思います。皆様からの忌憚のないご意見をお待ちしております。
それでは又次回お目にかかりましょう。
* この記事はデトロイト日本商工会の会報「Views」に2021年7月に掲載されたものです。
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