8. コロナ禍で思うこと 【コラム:異文化の海を泳ぐ】

今年はご承知のごとくコロナウィルスに関するニュースが連日報道されており*、皆様も外出自粛令や各種制約により不便な思いをしながら日々を過ごしているのではと思います。更に、5月末に起こった白人警官が逮捕時に行き過ぎた行動で黒人を死に追いやった事件を発端に起こった全国的な抗議活動も連日報道されています。そこで今回はこの2つニュースを中心に述べてみたいと思います。

第一はコロナウィルス蔓延についてです。これは米国、日本を含め全世界に波及しPandemicという言葉が日常的に使われる事態になっています。この蔓延を防ぐにはいわゆる「3密」状態をさけるべきということがここ米国でも強調され、これを守れば感染は収まるとの見解は大方の人達が理解しているように感じます。但しこれをどう効果的な実施に結び付けるかという点では日本と大分違う感じがします。

ここミシガンでは3月初めから急激に感染者と死者が増加したことで、州知事により企業活動の一時停止、市民への自宅待機令、ソーシャルディスタンスの徹底等が矢継ぎ早に発令されました。日本との違いは、政府の統一見解の元各自治体が企業や市民に要請を行う日本のやり方に対し、ここでは実際の指示や命令はあくまで各自治体の長が発するという点です。これは国の生い立ちにより州の権限が強いからだと思います。従い、ミシガン州の知事令が他の州でも同じかというとそうではなく州毎に違いがあります。特記すべき点は命令(Executive Order)であり要請ではない点です。実効力の点では日本での要請と米国での命令はほぼ同じような感じがします。米国では単に要請では実効力は低いのではないでしょうか。

その一例はマスク着用についてです。元々欧米では日本やアジア諸国と違いマスクをする習慣がないので当初はそれほど重要視されていませんでしたが、政府や州の医療関係者からその有効性が強調されるようになってからはスーパーや公共の場所でのマスク着用が一旦は定着しましたが、制限の緩和と同時に未着用も増え感染数が増加した為これまでのマスク着用を要請から義務化にする州が増えてきました。その一方で、これらの指示に公然と反対する人たちもが多々見受けられます。

彼らの主張は個人の自由を束縛するような指示には従えない、というところに収束している様です。又、警察官の中にはこの様な措置を市民に強制することはしないと公言しているケースもありますが、それでも彼らが処分の対象になったとは聞いていません。これも日本とは大違いですね。この事態は私の認識ではコロナウィルスという外敵が米国を侵略しているという国家と国民にとって重大な危機なので、イデオロギーの違いを超えて一致団結してこれを防ぐ方向にまとまるのかと思いましたが、その様には全くなっていません。政府が民心を一つにまとめる事が出来なかったのが大きな要因だと私は思っています。結局自分の身は自分で守るしかないのでしょうか?

第二の点は黒人差別に対する抗議活動の活発化についてです。この抗議活動は今突然起こったのではなく長い間続いている黒人への差別に対する不満が一つの事件をきっかけに全

国的規模の抗議活動に膨れ上がったということです。黒人への差別は他の少数民族へのそれとは違い、根幹は米国の黒人の多くが過去奴隷の境遇にあり彼らは主に白人の所有物とみなされていたところにあります。

南北戦争(Civil War)を通じて奴隷解放がなされたのは良くご承知かと思いますが、黒人への差別はその後もずっと続き、ミシガン州でも1960年代前半まで公共のバス等で座れる場所が制限されていたと聞いてびっくりした記憶があります。1964年に公民権法が制定され差別は違法となったももの、その後も一部の白人社会に深く根付いており折に触れてそれが表面化して抗議活動が繰り返される、今回もその流れの一つと言えます。

日本で育った私には信じがたい状況ですが、この国の歴史を紐解くと多少理解ができる気がします。各種差別禁止の厳しい法律が存在するのも実態の裏返しではないでしょうか。最後になりますが、読者の皆様で不幸にもコロナウィルスに感染された方には一日も早い回復をお祈り致します。では次回又お目にかかります。

* この記事はデトロイト日本商工会の会報「Views」に2020年7月に掲載されたものです。

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