さて、今回のテーマが何故異文化に関係があるのだと首をかしげる方もおられるかもしれませんね。どこの文化でも沈黙という言葉は存在するのですから。実はこのテーマを取り上げようと思い立ったのは、先日当社のセミナーの席でアメリカ人から日本人って会議の席で良く寝ていますね、ってコメントを聞いた時です。おや、このコメントは以前にも聞いたことがあるなと思い、良く聞くと会議中に目をつぶって黙っているので寝ているんじゃないって思ったとの事。何回も聞くコメントと言う事は、この日本人の態度は彼らにとってとても奇妙に映っているのだと思います。

私自身も過去に同じような態度をちょくちょく取っていましたから決して寝ている訳ではないよと彼らに説明します。日本人は昔から沈黙を美徳とし、多弁な人間を否定的に見てきた傾向があります。曰く「沈黙は金」「口は災いの元」「以心伝心」「言わぬは言うにまさる」「言葉多きものは品少なし」等々。これらの言葉は皆様自身があまり口に出すことは無いかも知れませんが、多くの日本人の意識の根底には未だ生きているのではと思います。特に仕事の上では、会議の席で喧々諤々と議論しあうことは日本ではまず無いでしょう。部下は上司の意見に反対する事はめったにありませんし、上司もあまり喋らず、タイミングを見てて一言発しておしまい、といった調子ではありませんか? 

しかしここアメリカでは大分状況が違います。アメリカ人は一般に論議好きですから、お互い意見の応酬を間髪をいれずに交わしています。私の経験から言わせて貰うと、これらの会話に割り込もうとするのは至難のわざです。彼らの会話はとても早口(私にとって)ですから、これらを理解するのは一苦労です。そもそもアメリカ人は子供の時からディベートを学んでいますし、議論は良いことだと言われていますから彼らの行動はごく自然な事だと思います。とは言っても我々ネィティブな英語を話せない日本人にとっては大問題。一生懸命彼らの会話を理解しようとすれば、おのずから発言が少なくなります。これがアメリカ人から見ると日本人は自分の意見がないんじゃないのという考えにつながります。

違うよ、皆の議論についていけないだけじゃ。おまけに会話を理解しようとすればするほど精神を集中しなければなりません。これをするための良い方法は目をつぶることです。こうして彼らの議論を理解しようと努力し、さて考えをまとめて意見を言おうとした頃には議論の内容は既にあさっての方に進んでいて発言の機会を失います。それでもかまわず発言をするということは議論の流れを遮る事になり他のメンバーが不快に感じるだろうなと気を回し、発言をしないでおこうとなります。日本人である私の頭の中など普通のアメリカ人には分かりませんから、結果的に岩崎という日本人は目を瞑っていることが多く発言もほとんどしないので、寝ているのではないかとの結論に達します。この様に日本人の沈黙には多くの要素が絡み合っていると思います。

でもアフターファイブでの飲み会で上司の悪口を言う段になると途端に饒舌になりますから日本人が一概に話し好きではないという訳ではないですね。時と場合によるのかも知れません。もう一つ付け加えたい事があります。それは日本人特有の恥ずかしいと思う気持ちと他人の目を気にするという傾向であります。こんな質問をしたらそんな事も知らないのと思われたら恥ずかしい、これを言ったら周りの人はどう思うだろうといった事が頭をよぎるとつい言葉が出なくなり、発言の機会を失います。つまり黙ってしまう、これも沈黙につながる一因になるのではありませんか? 実は先に上げた諺「沈黙は金」は英国やアメリカにもあるようですがこれは寧ろ雄弁である彼らに議論ばっかりしてないでたまには沈黙する事も大事だと戒める意味で使われているそうです。「沈黙」の意味する事が日米で大きく異なっているのも興味深いものがありますね。以上、私自身の体験を基に述べてきましたが、皆様はどうお感じになりましたか? 

では今回はこの辺で筆をおく事にします。

* この記事はデトロイト日本商工会の会報「Views」に2018年11月に掲載されたものです。

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Hiroshi Iwasaki
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