人間中心のリーダーシップとは、「チームメンバーを幸せにする環境」を構築するリーダーシップのことです。人々が仕事をして幸せになるためには何が必要でしょうか。幸せを感じることが仕事に良い効果をもたらし、それが顧客の満足にもつながる、そういった環境を作ることが重要になります。その環境を整えるのに必要なのはリーダーシップです。では、リーダーシップとは何でしょうか?リーダーとは誰のことでしょうか?

リーダーという言葉を聞くと皆さんはおそらく、緒方貞子、坂本龍馬、バラク・オバマ、ガンジー、盛田昭夫、リンカーン、三木谷浩史、クリスティーヌ・ラガルド、徳川家康、スティーブ・ジョブズ、ハリエット・タブマン、本田宗一郎、ワンガリ・マータイといった人々のことを思い浮かべるのではないでしょうか。つまりどこか大きな組織の偉い人がリーダーである、と思っていませんか?これらの人々はリーダーシップに優れているために、高い地位についたということは間違いありません。

しかし、リーダーになるためには肩書きは必要ありません。大きな組織のトップとなる必要はありません。もちろん、肩書きを持っている人が上手くリーダーシップを発揮することは大切ですが、実は誰でもリーダーになれます。アメリカではよく、背の高い人、カリスマのある人、容姿端麗な人がリーダーになりやすい、と言われています。実際にそれを裏付ける統計も存在しています。しかし、どんな人でもリーダーシップの行動をとることで、効果的なリーダーになれます。個人の属性や特徴は関係ありません。つまり皆さんもリーダーになれる、ということです。

それでは、リーダーシップとは何でしょうか。その定義について考えてみましょう。私は次の定義が一番わかりやすく説得力のあるものだと思います:「リーダーシップとは自分がそうすべきだと確信していることを、他の人がそうしたいと思うように仕向ける一種の技である。」これは1960年代に『ピラミッドを登る人々』を執筆したヴァンス・パッカードの言葉です。この言葉を具体的に分析してみましょう。肝心なのは、強要したり命令したりするのではなく、皆がそれをやりたいと思うように仕向けることです。それには、人それぞれのスタイル、自分に合ったやり方があります。二人の違う人がいれば、二種類のリーダーシップのスタイルがあって構いません。しかし、それは技であり科学ではありません。

リーダーは自分ですべてを行う必要はありません。リーダーに必要なのは、他の人々を巻き込んでベクトルを定め、皆で同じ目標に向かうように誘導することです。つまり他の人々をどのように説得するかが重要なポイントとなります。また、そうすべきだと確信していることについて、リーダー自身が情熱を持つことが大切です。周りの人々を騙すのではなく、自分が是非やりたいと情熱を持っていることを、周りの人々にも同じように感じてもらうように仕向けることがリーダーシップです。

最近はスポーツチームのコーチの多数がリーダーシップの本を執筆しているようですが、そのような本は理論的根拠に欠けています。私はジェームズ・クーゼスとバリー・ポズナーという二人の学者の理論が、一番説得力があると思います。彼らの特徴は、アメリカだけではなく、さまざまな国で自分たちの理論を検証し、世界中に通用するリーダーシップについて語っているところにあります。私が過去に読んだリーダーシップに関する本の中には、アメリカの価値観や考え方に重点が置かれ、日本では通用しないというものも幾つかありましたが、彼らの理論は日本でも通用します。この二人の学者の研究は、リーダーシップのレシピを探求することから始まりました。優れたリーダーはどのような行動をとっているかを理解することによって、そのような行動を取れば誰でも優れたリーダーになれる、というレシピを作り出したのです。

彼らは何万人もの人々にインタビューを行い、そこから得た情報を分析しています。その際の彼らの問いかけは次のようなものでした:「誰かから指示を与えられて、進んで従った時のことを思い出してください(職場やスポーツのチームなど、どんな状況でも構いません)。そのような状況で、あなたがリーダーとして尊敬した人物のことを考えながら、次の質問に答えてください。その人物は、あなたや周囲の人たちにベストを尽くしたいと思わせるために、どのような行動を取りましたか?」

私は最近の講演で同じ質問をしましたが、その時の回答によると、あるリーダーは「この目標を達成しなさい」と言う代わりに辿り着きたい理想像について語り、その理想像を達成するには何が必要なのかを周囲の人々に話し合ってもらっています。別のリーダーは、まず自分たちの置かれている現状を客観的に分析して、その内容に周囲の人々が合意しているかを確認した上で、自分たちが期待する状況を明確に共有することから始めています。マイクロマネジャーとは正反対の立場で、自分は手を出さないが、しっかり後ろから支えてくれるリーダーの例も挙げられました。

クーゼスとポズナーは、理想的なリーダーシップに必要な行動として次の5つを指摘しています。

  1. 模範となる:部下の手本となるような存在となる。自らの価値観とリーダーシップに関する哲学を明確にしている。自分の価値観に一貫性がある。
  2. 共有するビジョンを鼓舞する:より高尚な将来を描く。共通のビジョンに部下の関心を惹きつける。部下の価値、関心、希望、夢に訴えかける。
  3. プロセスに挑戦する:挑戦の機会を探す。変化、成長、改革、改善を促す。試行錯誤し、失敗から学ぶ。
  4. 人々を行動に駆り立てる:協力して目指す目標を設定し、信頼を築くことで協力を促進する。情報と力を共有して部下にパワーを与える。部下の決定権を増やす。組織の中で部下の知名度を上げる。
  5. 心から励ます:プロジェクトの成功に貢献した人々の努力を讃える。チームの目標達成を祝う。

人間中心のリーダーシップについて考えてきましたが、いかがでしたか?これを参考に、あなたも是非優れたリーダーとして活躍してください!

弊社のセミナー「リーダーシップ・チャレンジ」はクーゼスとポズナーの研究に基づいたもので、参加者はリーダーシップ行動様式についての360度フィードバックを受け取り、自分の長所を理解して何をもっと頻繁に行うべきかを学べるようになっています。

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