
「失敗」はこれまでネガティブなこととのみ思われてきました。でも、シリコンバレーでは、失敗に対して新しい考え方をするようになっています。イノベーションというのは、一直線に進んでいくことがほとんどありません。このため、失敗に対する新しい認識とは、成功するために避けて通ることのできないものであり、異常ではなく正常と見なされるべきだという考え方です。シリコンバレーの起業家は、こうした観点に立って、失敗を恥ずかしいこととは思わず、ある種の「勲章」ととらえるようになっています。事実、シリコンバレーで最も成功している起業家の多くは、1つやそれ以上の事業を無残にも失敗させた後に、成功法則を見出してきました。
とはいえ、単に失敗すれば良いというわけではないのも事実です(シリコンバレーですら、失敗の好きな人などいません!)。失敗してその体験から学ぶことが重要なのです。失敗は学習の一形式でなければなりません。この姿勢を表すシリコンバレーの業界用語が「フェイル・フォワード(fail forward)」です。失敗して前に倒れること。すなわち、うまく行かなかったことから学び、どんなにネガティブな経験であってもすべての出来事がフィードバックだったと見なして、そこから次なるポジティブなステップを踏み出すための知恵を発掘することです。
このため、頻繁に失敗できるほど、学習は加速します。試行錯誤のプロセスこそが最終的に成功を導く可能性を高めると考えるのです。現在シリコンバレーで人気を博している2つのアプローチ、デザイン思考とアジャイルソフトウェア開発は、こうした見方を反映しています。どちらのアプローチも、物事がどのように展開するかを正確に見越して完ぺきな計画を立てることなど不可能だという考え方を基本としていて、とにかくやってみて、どうなるかを見たうえで、集まったデータに基づいて調整していくほうが賢明だと考えるのです。例えばアジャイルなアプローチは、スプリントと呼ばれる2週間の作業サイクルで構成されていて、毎回のサイクルの終了時にフィードバックを集めて即座に調整を行います。
今やっていることがうまく行っていなければ、やり続けないほうが得策です。フェイル・ファスト(fail fast)、すなわちすばやく失敗して機敏にルート変更し、必要とあればその取り組みを完全に中止して、苦しい戦いに時間と費用をかけてしまうのを回避します。大企業の多くは、厳密なプランニングと予算組みのやり方を確立させているため、新しい情報(顧客や市場、さらには社内エンジニアからのフィードバック)に敏捷に反応して方向をすばやく転換するのは苦手です。このため、柔軟性を強みとするスタートアップに有利な状況が作られます。しかし最近では、大手の企業も、どうすればフェイル・ファストの理念を実践できるかを模索するようになっています。御社でもそれは必要かもしれません。
* This article originally appeared in Teikoku News.
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