
米国では児童の68人に1人が自閉症スペクトラム障害と診断されています。この数は近年、急速に増加しました。今までは、これだけ多くの子どもたちが将来どうやって生計を立て、生産的な人生を送っていくのかが、大きな問題になっています。自閉症スペクトラム障害のある人はしばしば、様々な違いと社会的なスキルの不足ゆえに、職に就いたり勤め続けたりすることが困難です。ある調査では、自閉症スペクトラム障害の若者の58%が無職とされました。こうした若者には様々な才能があり、その多くは高い学歴を持っていますが、就職の面接で壁にぶつかることが多々あります。面接官の意図を汲んで適切に対処する対人スキルが欠けているからです。また、例え就職できたとしても、職場にサポートシステムがなく、受け入れてもらえないことが、勤め続けるうえでの壁になることがあります。
しかし、最近になって、SAP、ヒューレット・パッカード、エンタープライズ、マイクロソフトなどのハイテク企業が、自閉症スペクトラム障害のある人の多くが特に現代の職場で役立つ能力を持っていることに気付きました。データを確認する、細かい作業をコツコツとやる、数学的な概念を理解する、大量の情報のなかから特異なパターンを見つけるといった能力です。また、真面目で根気強く、長時間にわたって集中を持続する力があることも、貴重な能力です。この結果、特別な制度を用いて自閉症スペクトラム障害のある人を積極的に採用しようとする会社が見られるようになりました。そして、そのトレンドを肯定的に「ニューロダイバーシティ(神経多様性)」と呼ぶようになっています。こうした会社は、採用だけでなく入社後の研修やサポートの制度も特別に用意して、自閉症スペクトラム障害の社員を処遇しています。こうして採用された社員は、ソフトウェアのテスティング、分析、IT、グラフィックデザイン、会計補助などの職種に就いています。
こうした制度を導入した企業は、結果に満足しています。生産性の高い有能な人材を新しく見つけることができたからです。今日の売り手士業では、そうそう見つからない人材です。
制度の導入で新たな発見も
また、そのようなニューロダイバーシティワーカーを採用することで、他の社員にも学びがもたらされます。自閉症スペクトラム障害の人は、情報処理の仕方が異なるため、言語の曖昧さを理解するのに苦労したり、コミュニケーションにおいて人とは異なる反応をしたりします。これが、他の人に新しい気付きをもたらすきっかけになる可能性があるのです。例えば、会計事務所のEY(旧:アーンスト・アンド・ヤング)は、自閉症スペクトラム障害のある社員をチームに迎えることで、コミュニケーションや経営戦略の有効性に関して新しい視点がもたらされることを認識しました。SAPでは、自閉症スペクトラム障害の同僚がいる社員は、わかりやすくコミュニケーションする方法やプロジェクトの目標や方向性を明確に定義する方法を学べることに気付きました。
ダイバーシティがますます企業の重点課題となるなか、脳の回路が人と異なる社員のスキルを活用することは、次なるフロンティアと言えそうです。
* This article originally appeared in Teikoku News.
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