17. 言論の自由とは 【コラム:異文化の海を泳ぐ】

来年の大統領選に向け各候補者の言動が盛んに報道されていますが、これらを聞いていると随分私の母国と違うなと感じるところがありますので、今回はそれを取り上げてみたいと思います。最も話題になっているのはご承知の通り早々と候補に名乗りをあげた前大統領が行っている選挙活動での言動で、メディアでも大々的に取り上げられています。当人は今年に入り起訴される案件が続き、近々更に別件でも起訴されると噂が飛び交っています。この様な人物が大統領選に出るのかなという疑問はさておき、彼が未だに2020年の大統領選で自分が勝ったとの説を吹聴している事が自分には信じられません。

彼曰く、ある州では数千人の不正投票があった、投票集計機器が不正に集計した等枚挙にいとまがありませんが、これらが事実であるという事を一切証明できず彼と彼の陣営が起こした20件を超える訴訟は悉く退けられました。私の日本人的感覚ではもうこれ以上は(心の中では思っていたとしても。)言いませんよね。しかし彼はこの説を支持者だけではなくマスコミにも堂々と吹聴し続けています。驚くべきは、彼と彼の無根拠説を支持するものが連邦議員や州の党員達に多く見受けられる事です。

日本ではこのような根拠を示せない説を公職にある人が公然と述べる事は稀です。何故なら未だに世間の目を気にする風潮があるのでこんな無根拠説は言わないでしょう。如何に最近SNS等では言いたい放題言うようになったとしても、です。この国で頻繁に言われる言論の自由と村社会の延長である日本との違いでしょうか。

関連して気になる事がもう一つ。この国では他人を尊重する事、敬意を払うという意識が薄れている気がします。大統領職や、議会議員職等はそれなりの地位がありますので、能力の有無は別として国民から選ばれた人々ですから、最低限の敬意を払う必要があると思います。いくら支持しない相手でも子供に下品な言葉を書いたプラカードを掲げさせる(本来この様な言葉は親が子供に使わないよう厳しく躾けるものですが)、政敵を無根拠の内容で個人攻撃するなど目にあまるものがあります。この様な事が毎日のように報じられても当人は何のお咎めもなし、というのは言論の自由を謳歌する国ならではの風潮でしょうか? 昔はこんなではなかったとも聞いていますが。

最後にもう一つ。この国にはディベートというものがあります。議論を尽くす為の方法として良い仕組みだと思います。残念ながら子供の時からこれを教えられている人達と違い、日本人である私には到底ついて行けない仕組みですが。ディベートの代表的なものは大統領選での政策論議でしょう。確か1960年代の大統領選で行われたテレビでの公開論戦からお馴染みになったと聞いています。しかし、2016年の選挙戦から政策論議より個人的な中傷合戦になってしまいました。来年の選挙選では醜悪な舌戦からまともな政策論議になってくれる事を願うのみです。でもどうしてこうなってしまったのでしょうか? 言論の自由とは何をいっても良いという意味ではないと思います。自分の発言には責任を負うべきです。少し政治的な発言になってしまった感がありますが、日米の文化、環境の違いを表すものとしてお読みいただければと思います。

では次回又お目にかかりましょう。

* この記事はデトロイト日本商工会の会報「Views」に2023年7月に掲載されたものです。

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