米朝首脳会談に見る交渉の仕方

第二回 米朝首脳会談に見る交渉の仕方

鳴り物入りで開始された228日のドナルド・トランプと金正恩の米朝首脳会談は、一晩で決裂した。トランプはその理由を記者会見で、「相互の要求に大きな溝があった。寧辺(ヨンビョン)核施設の廃棄の見返りに経済制裁の全面解除を求めたことは受け入れられない」と述べている。

それに対し、31日の未明に、北朝鮮の外相は記者会見を開き「求めたのは全面的な制裁解除ではなく、一部の解除だった」と反論している。

北朝鮮側は緊急かつ重大な「経済制裁解除」の合意に向けて周到に準備がされていたのに、なぜ一夜明けたら決裂したのか。

私は、決裂の理由にはアメリカと北東アジア(中国、朝鮮半島)などとの交渉方法の違いがあると考える。

アメリカ側が、Topが出てくるのであれば、その会議は決定する場と考えるのは当然だ。だから、自分の手のうち、つまりは何を求めているかを交渉相手に隠さず見せたと考えられる。Get it off your chest” “Tell it like it is”Put your cards on the table”  は、全てアメリカの交渉方法を表している言葉だ。

しかし、北朝鮮では、交渉は、まず大きく出て(経済制裁全面解除)、自分の希望の位置(一部解除)まで時間をかけて下ろしていく。その交渉過程が大切で、時間をかけて少しでも相手から良い条件を引き出し、最終的に自分の望むものを入手できれば、それは「成功」だと考えたに違いない。実は、韓国も中国も(恐らく北朝鮮も)、交渉の仕方は同じだ。相手を見ながら柔軟に(あるいはコロコロと)変えて、時間をかけて話し、ともかく最終的には「自分の希望したもの」を獲得する。そのためには、最初は大きく出るのが彼らの流儀なのだ。

「本当は一部解除だった」などと会見で述べるなど、北朝鮮の悲しさがにじみ出ている。もし、トランプ大統領が、真剣に合意を考えていたなら、ここで席をけらずに、多くのアメリカ人ビジネスパーソンが苦労するように、長い時間をかけて合意への努力をしただろう。しかし、トランプは、性格的にも、そんな悠長なことをするタイプではないし、真剣に合意を願っていたかは疑問だ。また、会談実現まで周到な事務方の調整があったのだが、アメリカは現場に決定権が与えられていただろうが、北朝鮮側は労働党委員長以外に決定権は無い。彼らはあくまで金正恩へ報告する役割しか与えられていないのだ。

アメリカ人はこのようなアジアの交渉方法に「精通している、身についている」とは言いがたいから、ダメならと席を立つ。同時に北朝鮮側も、「本音で話す」交渉は苦手だったに違いない。今ごろ、金正恩はあれだけ期待した制裁解除が没になり、面子もつぶされ、一人泣いていることだろう。きっと3度目の会談が開かれるとしたら、つぶされた面子が回復してからに違いない。