22. 郷に入りては郷に従え 【コラム:異文化の海を泳ぐ】

前回日本での整列乗車の事、電車内やレストラン等では大声を出さないといった事を例題として、タイトルの諺について述べましたが書いているうちに、どこか今の米国の移民問題と相通ずるものがあるように思えてきたので、今回はこの点を中心に異文化の観点から述べてみたいと思います。

この言葉は相当古くから使われており一説では鎌倉時代まで遡ると言われています。一方英語の言い回しである“When in Rome, do as the Romans do” も語源は古く1530年頃に表れたそうです。内容はほぼ同一ですから洋の東西を問わず語り継がれてきたものと言えます。最近不法移民規制と称して移民を排斥したり差別する傾向がこの国では強くなり現政権になってからものすごく鮮明になっています。これは現大統領だけがそうではなく彼を選んだ多くの国民がそう思っているからでしょう。ではなぜこのような傾向が最近顕著になって来たのでしょうか?

この国の祖先は殆どが移民だから他の移民と何ら違いがないのに、と言うのはあまりにもきれいごと。一口に移民と言っても時代により大きな違いがあり、苦労してアメリカを作り上げたと自負がある初期の移民(主に西・北ヨーロッパからの移民とその2世や3世)やその後東・南ヨーロッパからの移民とその次世代から見ると昨今急増した他の地域からの移民がともするとこの国のルールを無視し、自由の国だからと声高に変革を叫ぶ光景は彼らには許しがたいものがあるのでしょう。だから時々公の場でこの国で生まれた移民の次世代に対し自分の国に帰れ、なんて言葉が発せられる事になります。言葉に出して表現する国ですからこの国は。

一方日本ではどうでしょうか?たとえ一部の外国人観光客がルールを無視してもよほどの事がない限り皆何も言いません。謙譲の美徳ですからあの国は。でももし日本に帰化した人たちが同じ様な事をするようになったらどうなりますことやら。蛇足ながら第二次大戦前の東ヨーロッパからの移民(私の妻の祖母)や日系人は相当な差別を受け、苦労したと聞いています。多分言葉の壁が起因しているのでしょう。日系人は今はうまくこの国に溶け込めたと信じています。「郷に入りては郷に従え」の実践のおかげか? 

さて、話を戻し、日本での状況についてもう少し考えてみたいと思います。日本での整列乗車割り込み、レストランや社内での大声の会話等は日本人同士でも以前から散見されていましたが、今回私が感じたのはこれらをはるかに上回る頻度で、しかもそれが全て海外からの旅行者だった点です。ほぼ2年間隔で日本を訪れている私はこれまでも外国人旅行者はよく見かけましたがあまりこの様な状況にはぶつかりませんでした。何故今回はそんなに多かったのでしょうか? コロナ解禁で海外からの旅行者が急増したという一面はありますがどうもそれだけではなく、彼らが日本の習慣やルールを良く知らないまま来ているのではないかとも考えます。郷のルールを知らない人たちがどうやったら郷に従えるのでしょう。以前は、旅行先の習慣やルールを事前に調べた上でやってくる(少なくとも私の世代ではそうしており)、その上で郷に従う努力をしたものだと思います。 

しかし、最近の日本への旅行者は若い世代が多く、インターネット等で自分の興味ある事だけ調べてやってくる。従い、その土地の習慣やルールなど知らないまま自分たちの基準に沿って行動する。これではタイトルの様な考えは湧いてこないでしょう。この様な事はこれからも頻繁に見られると思います。日本人は謙虚であまり声を上げないからと言ってほっておくと大事になりかねません。是非国としてこれらをもっと色々な所で発信し、外国の人たちが日本の習慣やルールを知ったうえで観光を楽しんでくれる様な環境を作って戴きたいですね。第2の鎖国などまっぴらです。

ではこの辺で筆をおく事とし、次回又お目にかかりましょう。

* この記事はデトロイト日本商工会の会報「Views」に2025年3月に掲載されたものです。

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