
マウンテンビューにあるグーグル本社で開かれたイベントに参加した時の話です。イベントの開幕に際して挨拶に立ったグーグルのエンジニアが、職場としてのグーグルについて少し話してくれました。そのなかで印象に残ったのが、次の言葉でした。「エンジニアには技術的な決定を下すことが期待されています。マネージャーは細かいことにまで介入しません」。実際、グーグルでは、マネージャーに期待する行動のひとつとして「部下に権限を与え、細かいことまで管理しない」ことを挙げています。マネージャーは、平社員に対してすら自分で決定する余地や革新を実現する自由を与えるべく努力しなければなりません。
この種のマインドセットは、シリコンバレーではごく普通のことです。ハイテク企業では、社員への権限委譲がとても重視されているのです。これは、エンジニアなどの専門家のほうが、上層部のマネージャーよりも仕事の詳細をおそらくはよく理解しているという気付きから来るものです。スティーブ・ジョブズは、かつて次のように語りました。「優秀な人材を雇っておいて彼らに命令するのは非合理的だ。アップルは優秀な人材を雇っている。社員のほうこそ、どうすべきかを私たちに教えてくれることができるはずだ」。
「nose in, fingers out」という表現は、この種の思考と重なるところがあります。このフレーズは、会社のエグゼクティブ、マネージャー、あるいは取締役などが取るべきスタンスについての一般論として使われています。要は、高いレベルにいる人は部下の仕事を自分でしようとすべきではなく(仕事に指を突っ込まない)、むしろ観察して「匂いテスト」に合格するレベルの仕事が行われているかどうかを確かめるべきである(鼻を突っ込む)ということです。別の言い方をするならば、「目で見て、手は着けない」でしょうか。
会社内を鼻で嗅ぎ回っているマネージャーやエグゼクティブは、何が起こっているかを知っています。事業を取り巻くリスク、トレンド、問題点などについて、明確な理解を持っているはずです。何がうまく行っていて何がそうでないかも分かっています。市場を確実に把握して、市場がどこへ向かっているかも理解しているでしょう。
同時に、指を突っ込んでいないマネージャーやエグゼクティブは、事業の些細な点にとらわれることがありません。それらの細かい点は部下に任せてあって、部下が責任をもって対応すると信じているのです。部下の仕事を自分でしてしまい、結果として部下を無力にするようなことはしません。干渉はせず、あらゆる意思決定を後知恵で批判したり、自分の部署で起きることをすべてコントロールしようとしたりすることもありません。
これまで多数の日本企業と仕事をしてきましたが、その経験に基づくかぎり、日本企業では細かいことまで管理するマイクロマネジメントが普通のように見受けられます。マネージャーやエグゼクティブ、さらには取締役にまで、「直接関与」することへの多大なプレッシャーがあるように見えるのです。もしかすると「nose in, fingers out」というフレーズを覚えておくと、果たすべき役割を考え直すのに役立つかもしれません。
* This article originally appeared in Teikoku News.
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