2013年2月26日 日本の良さを逆にアメリカ人から学びます:アーンスト和子先生
2008年に、U.S. Frontlineの記事として、下記のアーンスト和子先生のインタービュー記事を用意しました。先日亡くなりましたので、思い出としてここに載せました。彼女は才能を持つ真の芸術者でしたし、日米文化橋渡しとして絶え間なく努力していました。彼女から生花を習うことができて、とても運が良かったです。もともと学びたかったです。ご冥福をお祈り致します。
カップ:今は5月31日から2日間シカゴ植物園で開催される展示会の準備でお忙しいと思いますが、どのような内容になるか教えてください。
アーンスト:池坊、草月、小原、一葉など流派に関係なく、テーブルの上に置けるもの、家のコーナーにちょこっと飾れるもの、そしてホテルのロビーなどにあるような大きなものまで、色々なお花を楽しんでもらえます。季節も良いので、生け花展だけでなく植物園全体を楽しめますから、ぜひ皆さまに来ていただきたいですね。
カップ:小原流の特徴とはなんですか? シカゴでは現在、何人が小原流の生け花を学んでいますか?
アーンスト:簡単にいうと小原流の特徴は「盛花」ですね。今では、色々な流派で使われている方法ですが、水盤と剣山を使う生け花は小原流が始めたものなんですよ。他にも、小原流は自然にあるものを花材として取り入れることが多いですね。私の生徒は約20人くらいでしょうか。定期的に通っている人は大体15〜16人くらいです。イリノイ州フォレスト・パークの自宅で毎週金、土曜日に教えています。シカゴでは隔週火曜日に日系人サービス・コミッティーで教えています。
カップ:いけばなインターナショナルのシカゴ支部でご活躍ですが、どのような活動をしていますか?
アーンスト:いけばなインターナショナルは、生け花の素晴らしさに感銘を受けたアメリカ将校の奥様だった方が1956年に立ち上げ、世界的に広がりました。雑誌を年に3回発行、生け花の世界大会を5年に一回日本で開催します。名誉総裁は高円宮妃久子殿下ですし、とても由緒のある団体です。基本的には、世界に生け花を広めようというのが目的の団体です。
北米地域には60支部ありますが、シカゴ支部は1959年に設立されました。具体的な活動としては、9〜5月に毎月行われるミーティングがあります。毎月1回のランチョンで、シカゴ支部のメンバー約70人で生け花に関するイベントやプログラムなどを企画します。例えば、シカゴのモートン樹木園で行われるアジア・フェスティバルや、今回の生け花展について計画したりしますね。
カップ:話は変わりますが、アメリカに来られたきっかけは?
アーンスト:陸軍に勤める夫の仕事の関係で、1960年にアラスカに来ました。
カップ:今までの職歴を教えて下さい。生け花と関係ありますか?
アーンスト:本職は、生け花とは全く関係のない薬学です(笑)。シカゴ大学、ベテラン病院と職場は変わったものの、同じ教授の研究助手をしていました。甲状腺・副甲状腺などに関わるホルモン関係の研究で、当初は、まだマウスやサルなどを使った動物実験が主流でした。今は細胞レベルでの研究で、その辺はもう私たちの時代とは違いますね。
生け花はアラスカの陸軍基地で、近所に住む奥さん達から「生け花を知っているなら教えて欲しい」といわれて教えたところ、口コミで広がりました。その後、シカゴに移ってからは、いけばなインターナショナルの会員でしたので、展示会などに出展した際に、作品を見た方々から「ぜひ教えて欲しい」と言われたのがきっかけだったと思います。
カップ:研究助手の仕事や生け花を教えたりと、かなり活発に活動されていたのですね。
アーンスト:仕事や生け花と、活発に外に出れたのは、子供2人が中学生になっており、主人がかなり手伝ってくれたからですね。
カップ:アメリカ人の生徒に生け花を教える際に、彼らが理解しにくいことはありますか?
アーンスト:生け花を学ばれる方は、日本に住んでいたり、日本のことをよく勉強している方が多いので、特に困ることはないですね。ただ、教え方は日本人に教える方法ではよくないようです。
とても幸運だったのですが、日本で私が生け花を始めたときの先生がアメリカ人将校の奥様に生け花を教えた経験があり、彼女に、私がアメリカに行って困らないように、そしてきちんとアメリカ人に生け花を教えられるようにと鍛えてもらいました。その先生は、当時では珍しく英語もお話になれたのですが、青山学院大学の教授の奥様で、インディアナ州にもいらしたことのある方でした。
具体的には、当時日本では「これくらい」「これだけ」など、曖昧な表現で長さや量を生徒に教えていました。あくまでも「感覚」的なものです。それではアメリカ人には通じませんから、「この大きさの器の場合、枝の長さはいくら、角度は何度」とはっきりした数字を挙げなければなりません。この方法を小原流は特に早く取り入れたと思います。日本にも外国人を対象にしたクラスがありましたしね。
このような教え方に関しては、私がシカゴに来て数年後にニューヨークに小原流センターが設立されたので、そこで講習を受けにいったりしました。特に、子供に手がかからなくなってからは、積極的に参加しました。現在はそのセンターは閉鎖されてしまっており、私の自宅が小原センターということになっています。
来年は、小原流支部の創立35周年記念に当たるので、日本から先生を迎えて講習会などを企画中です。シカゴ郊外のオークパークにある教会を使って4月くらいに開催できればと相談しているところです。
カップ:シカゴと日本では手に入る植物がかなり違うと思いますが、どのような花が生け花に向いていますか?
アーンスト:それは、本当に頭痛の種なんです! アメリカでも枝ものが増えたのは確かなんですけど、それでもまだ実際には花材は少ないですね。いつも頭を悩ませています。普通に買うとやはり高いので、問屋さんから特別な許可を得て、コネを使って色々なところで仕入れるようにしています。
シカゴ植物園に行くと、そこらじゅうの植物を切って、生け花にしてしまいたくなってしまいます。勿論、そんなことはしませんけどね。花材のことを考えると、こちらで教えるのは本当に苦労が多いですね。
カップ:生け花を教えていて、逆にアメリカ人の生徒から学ぶことはありますか?
アーンスト:結構あります。アメリカ人で生け花を学んでいる方は、日本の方と比べて伝統的なものを好むことが多いのですが、そんな皆さんを見ていると古いもの中にある美しさ、良さなどを改めて知ることが多いです。ただ、アメリカ人にとっては、古いというよりは、自分たちに無いものという意味で、新鮮なのでしょうけれど。
アーンスト和子
1957年、小原流生け花を横浜近辺の米軍基地にて始める。1960年渡米し、生け花を教える傍ら、小原流の技術や教え方などを積極的に学び続ける。本職は薬学で、シカゴ大学外科の薬学研究室(1962〜72)やベテラン病院(1972〜94)で甲状腺、副甲状腺などホルモンに関係する研究の助手を務め、94年に研究職を退職。
Photo credit: Ikebana International Miami Chapter #131 アーンスト先生の作品