入国を待つ外国人労働者にとって根比べが負担に  水際対策は企業の収益に影響を与えている

入国を待つ外国人労働者にとって根比べが負担に

水際対策は企業の収益に影響を与えている

このポストは2020年8月31日のジャパンタイムズ記事の和訳です

カナダ人のケン・ボワジョリー・モロー氏は、ガールフレンドと2年間にわたり、4回も日本を訪れ、日本に「恋」をして日本語の勉強を始めた。日本で生活するという目標の達成に向けた準備が整いつつあった頃、ボワジョリー・モロー氏は多国籍企業の日本法人から内定を受け取った。彼の専門分野であるサイバーセキュリティの人材は日本ではなかなか見つからず、この企業は1年半以上前からその人材を探していたため、ボワジョリー・モロー氏を迎えることが企業側にも有益になったのだ。

ボワジョリー・モロー氏は、3月に在留資格認定証明書(COE)とエンジニア・ビザを取得し、財産を売却して4月13日に日本に出発する準備をしていたが、コロナウイルス関連の渡航制限により渡航できなくなったため、5月からは、カナダからリモート勤務するようになった。

 「13時間という時差がある海外で、自分の母国語とは異なる言語で仕事をすることは、間違いなく難しいことです」と言う。他のチームメンバーとは異なる時間帯にいるため、仕事が遅延したり、チームメンバーとの衝突が発生したりする。

引っ越しの準備として、住処を手放したため、しばらくの期間をAirbnbで過ごした後、ガールフレンドの実家で仮住まいをしている。この状況は、とても長続きさせられるものだとは言えない。金曜日のニュースでは政府が新型コロナウイルスの蔓延を抑えるために導入した出入国管理措置を緩和することで、既存の在留外国人は9月から日本への再入国が許可されるとのことだが、ボワジョリー・モロー氏は、自分がいつ来日して新しい生活と仕事を始められるかが分からないという。彼とその雇用主は、入国管理局や外務省に何度も連絡を取っているが、矛盾した情報が伝えられている。そうしている間に、ボワズジョリー・モロー氏のビザは失効してしまい、まるで一度もビザを取得したことがない人と同様に扱われているように感じており、また最初から手続きすることになってしまった。

「この5ヶ月間、毎日、様々な情報源からの最新情報を見るのに時間を費やしてきましたが、ビザやCOEを新たに取得した人たちが政府から完全に無視されているのを見るたびに、失望していました。」と話し、このような状況により、ストレスで眠れなくなってしまったと付け加えた。「毎日私の頭の中はこのことで一杯なのです。」

 「私の雇用主は支援してくれていますが、私と同様、彼らにも何もできることがないのです」と彼は言う。「会社が入国管理局に電話するたびに、矛盾した情報が入ってくるので、正式な情報が聞けるまでは諦めることにしたのです。」

 ボワジョリー・モロー氏は、政府が新規入国者に課した一時的な入国禁止措置のために足止めを食らい、来日して日本での仕事に就くことができずにいる数多くの人々のひとりだ。海外からの人材の流れの凍結は、個人の生活に大混乱をもたらしているだけでなく、日本の国内事業に重要な職務に就ける人材を確保できない雇用主にも悪影響を及ぼしている。

中断させられた多国籍企業

ドイツのテクノロジー企業、ボッシュ・ジャパンのクラウス・メダー社長によると、同社には、現在13名の外国人社員が日本での就労許可の取得を海外で待っているということだ。

その中のひとりが、ボッシュが日本への大規模な投資を行っている横浜に建設中の新テクニカルセンターのプロジェクトマネージャーだ。この社員は、遠く離れた場所からインターネットを介してできるだけのことをやっているが、その業務の大半を現場で行う必要があるため、その職務を十分に果たすことができていない。メダー氏によると、この状況は、「さらなるストレスと、組織全体の時間、エネルギー、お金の浪費」を生み出しているという。

最近東京の原宿にオープンした「都心型店舗」のような形で日本での事業を拡大しているイケアには、日本への転勤を待っている新しいチームメンバーが数名おり、その中にはリーダー的な立場にある者もいれば、ホームデザインやデジタル販売などの分野の専門家もいる。イケア・ジャパンの最高経営責任者兼CSO(Chief Sustainability Officer)のヘレン・フォン・ライス氏は、これらの重要なチームメンバーを来日させられないことは「拡大を遅らせる」ことになり、計画されている店舗のオープンの期限を守るのが「非常に厳しい」状況になっているとジャパンタイムズ紙に語っている。

同社は、日本国内に既にいる人材で欠員を賄っているが、そのために事業の他の部分に負担をかけているという。

一方、アムウェイ日本法人には、3月から副社長として赴任するために米国から来日できなくなった幹部がいる。同社の政府・渉外担当ディレクターであるマーク・デイビッドソン氏によると、この状況はアムウェイの日本における10億ドル近い規模の事業に「直接的な悪影響を与えている」という。同社は、この役員の不在により新規事業のいくつかの立ち上げを遅らせなければならず、日本国内の60万人を超えるアムウェイ製品の販売者の収益見込みに打撃を与えている。

BMWジャパンは、社内の指導的地位に就く7人の人材が欧州から招聘されることを待っているという。同社の広報担当者は、この遅れがもたらす悪影響を説明する中で、日本では「特に新任者に」対面コミュニケーションが重要だということに言及している。 彼らは日本国外にいるため、「ディーラーや納車センター、パーツセンターなどの実際のビジネスの現場を訪問し、何が起こっているのかを把握することができない」という。

このような状況は、日本に進出している海外の多国籍企業には珍しくないものだ。在日米国商工会議所が発表したその会員を対象とした調査によると、21%が「社内の重要、あるいは必要不可欠なリーダーや専門家の職務を埋めることができない」と回答しており、在日ドイツ商工会議所がその会員を対象に行った調査でも、同じ質問に対する回答が同じく21%だった。

日本企業も実感している影響

海外から新入社員を呼び込めないことは、外国人社員を多く採用している日本企業にも影響を及ぼしている。楽天のグローバルタレントアクイジション課 シニアマネージャーの桑原メリッサ氏によると、同社には現在、日本の楽天で働きたいという内定を受け入れたものの、入国することができないために入社できない25を超える国々からの外国人候補者が100人近くいるという。4月上旬に政府が改正出入国管理法を施行した後、同社は海外での採用活動のペースを一時的に落とすという苦渋の決断をせざるを得なかった。

桑原氏は「国内のエンジニア候補者の確保は非常に競争が激しく、前年比では伸び悩んでいます」と語る。「海外の人材は、様々な重要なスキルや専門知識を持っているだけでなく、楽天グループの多様性と成長にも貢献してくれており、海外のエンジニア候補者やグローバル人材の採用なしには、我々の成長や、日本の経済成長により多く貢献するための貴重な機会を失う可能性があります。」

 新しい計画の必要性

雇用主、社員の双方が、新任者がいつ日本に渡航できるのかがわからないということへのストレスや不便さを強調している。この不確実性により、計画を立てることが難しくなり、さらに政府からの具体的な情報がないまま経過する時間が長くなれば長くなるほど難しくなるのだ。

今年の春にコンピュータサイエンスの学位を取得して卒業し、9月1日から東京のIT企業でエンジニアとして働くことになっていたアメリカ人のディアナ・トーマス氏は、この状況が彼女の精神面への負担になっていると言う。

「日本に渡航できるのが、来月なのか、それとも来年になるのかがわからないので、仕事を探したり、引っ越したりといった、座って待つ以外は何もすることができません」とトーマス氏は言う。

インドのネットワークエンジニアで、4月以降、来日して IT サービス会社での業務開始を待っているスディピト・デー氏は、自分の計画がすべて延期させられたと感じており、「私の人生の中で 1 年近くのギャップができてしまった」ことを嘆いている。 彼は、「日本政府が私たちの声に耳を傾けてくれる日を辛抱強く待っています。」と言う。

ヘイリー・スコット氏は、この遅れによって就業機会を失ってしまった。彼女は3月に大阪の保育園と幼稚園に採用され、英国での職場には、所定どおりの複数月前の退職通知をした。数カ月間にわたりビザについてやり取りをしていたが、しばらく何も連絡がない期間を経て、彼女に知らされたのは、国内の応募者が彼女の仕事に就いたということだった。彼女は未だに来日することを希望しており、他の職種にも応募しているが、それがうまくいくかどうかは入国禁止令がいつまで続くかにかかっている。

同様に、グローバルコンサルティング会社の日本オフィスにスカウトされ、4月から日本での仕事を開始することになった中国人データサイエンティストのフランキー・ウー氏は、この曖昧さが最大の問題だと言う。入国禁止令は毎月のように延長され続けているため、「基本的には何も計画できず、ただ不安になって待っているだけです。」と彼は言う。

政府の対応不足は多くの人々を困惑させている。

「我々が日本で経験していることは完全に不合理だと思います」とボッシュのメダー氏は言う。「海外渡航が制限されていることはわかるのですが、日本経済にとって非常に重要となる人々の入国が許可されない理由が理解できません。ウイルスはパスポートによって区別するわけではないのですから。」

ボワジョリー・モロー氏の気持ちは、4月3日に新型コロナウイルス対策が実施されて以来、入国や再入国を阻止されている、一群の外国人と同様のものだ。 「今回の危機が始まってからというもの、我々は観光客と同様に扱われていますが、我々の場合は、思い切った決断をし、今後の人生を日本に捧げ、その経済に貢献することに決めているのです。私が政府に期待するのは、我々に向けた計画なのです。」とボジョワリー・モロー氏は言う。



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