私は日本の出張から英国に戻る度に、逆カルチャーショックを受けます。ヒースローに着くなり、これから自宅に着くまでに起こりうるトラブルを考えると、うなだれてしまうのです。だって、運がよければ、にこやかだけれど不満足なだけのサービスですが、最悪の場合は露骨に不親切で不愉快な送迎サービスに身を委ねることになるからです。
私のセミナーに参加する日本人駐在員の方々も、やはり英国生活の中で最も大変と感じることの一つは「ひどいカスタマーサービス」だ、と言います。日本では常にレベルの高いサービスが当然という感があり、礼儀正しく丁重で、何かうまくいかない時には間髪を入れずに心からのお詫びというのが通常です。それに多くの英国人は、日本を訪ねた事が無くても、英国のカスタマーサービスは貧しいと思っています。ばらつきのある質、不快な態度、そして何かうまく行かないときの素直なお詫びどころか言い訳、言い出せばキリがありません。
一体どうして?これが日本人の駐在員の方々も、私自身も思わず感じてしまうことです。多くの人が思ってしまうほどこんなに英国のカスタマーサービスがとんでもないレベルであるのに、どうして誰も改善しようとしないのでしょうか?
最近日本と英国の企業文化の違いについてある調査をしているのですが、そこで気づいたことがあります。この事は、日英ののカスタマーサービスの違いについても解決の鍵となるのではと思いました。例えば歴史的に「企業理念」の概念は、日本の場合ステークホルダー型企業に基づいている一方、英国企業はシェアホルダー型に基づいています。この発想の違いが、一般に日本人の持つ企業への帰属意識・団体意識をもたらしているのです。
時代遅れと言う人もいるかもしれませんが、社会的な力関係・地位の格差を受容するという儒教に根ざした年功序列式の昇進、そして年配者や高地位の人を敬うなどの伝統的な精神構造が、日本のカスタマーサービスに影響を与えているのです。英国のサービス業界では一般社員の低給料にひきかえ、トップともなると数百万ポンドはざら、ということがままあります。その一方、日本の企業では、地位の違いはあっても役員と若い社員の給与に驚く程の差はありません。
最後に、日本のサービス業界の企業では、「現場主義」という考えがあります。シニアマネジャーの地位にいる方は、偉くなるには現場で働いて来たはずですし、店舗にいつでも出る気概を持っている必要があります。その考えの根底には、自分の手足で良いサービスを提供するという、「ものづくり」のようなある種の誇りがあるのです。これから数回に渡り、この紙面でこの領域の内容を検証していきたいと思います。日本の卓越したカスタマーサービスの鍵が解明されれば、今後日本式カスタマーサービスが日本の有益な輸出品となるかもしれませんしね。
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