米国のPR会社、バーソン・マーステラのロンドン・オフィスで新卒トレイニー1期生になることを私が決心してから、ほぼ25年になります。当時バーソン・マーステラは、ヨーロッパで電通との様々な合弁事業を開始していました。それが私には、日本への興味とコミュニケーション・スキルを生かして日本企業をサポートするチャンスと思えたのです。ヨーロッパに進出してくる日本企業は、それ以前の10年にわたって増え続けていました。
当時ヨーロッパのPR業界はほとんどが元ジャーナリストで占められていて、業務の中心は、プレスリリースを作成すること、それにジャーナリストを接待して好意的な記事を書いてくれるよう関係を作ることでした。ただし、変化の兆しはありました。バーソン・マーステラのような大手が新卒者を採用して「コミュニケーションのプロ」を育てようとしていたのも、そこに理由がありました。
1980年代後半、ロンドンでは投資銀行や株式市場に「ビッグバン」と呼ばれる大改革が実施されて、様々な官営業界が民営化されつつありました。私は企業PRチームに配属され、ブリティッシュ・ガス(後のセントリカ)と、株式上場を検討中の住宅金融組合の担当になりました。
どちらの会社も、ステークホルダーに向けたコミュニケーションという新たなニーズに迫られていました。このステークホルダーには、新しい株主だけでなく、事業展開地の地元コミュニティも含まれていました。国有企業や協同組合でなくなっても信頼の置ける会社だということをアピールしなければなりませんでした。また、イメージを洗練させて高学歴者を引き付ける必要もありました。
ヨーロッパの日本企業は、これと同様のニーズを抱えています。当時から今に至るまで変わらないニーズですが、残念ながら過去25年の進歩はあまりないように見受けられます。日本では有名なのにヨーロッパではほとんど、あるいはまったく無名の会社が、あまりにもたくさんあります。何をしている会社なのか、良きコーポレート・シチズンなのかどうかが、まるで知られていないのです。
25年前の電通の合弁事業は成果を上げませんでしたが、でも今になって、電通は自らヨーロッパ企業を買収しています。他の日本のPR会社や広告会社も、欧州事業を強化し始めているのが分かります。
日本企業は、外国投資家を満足させるだけでなく、特にインフラ・プロジェクトで成功しようとするのであれば、地元コミュニティに情報を提供して歓迎され、また現地新卒者の間で働きたい会社と見なされなければなりません。
これは日本だけの問題ではありません。私は最近、シーメンスが発注したと思われる調査の回答者になりましたが、質問の内容は、シーメンスが1843年以来イギリスで事業展開し、イギリス最大の新卒者採用企業の1社であり、イギリス国内に12の工場を有して、ありとあらゆるエネルギー・インフラ関連のサステナビリティ・プロジェクトに参加していることを知っているかどうかを問うものでした。恥ずかしながら私は知りませんでしたが、シーメンスが比較対象にした競合他社に私のかつてのクライアント、セントリカが含まれていたことには興味を引かれずにはいられませんでした。
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