ロンドン・オリンピックでイギリスが自転車競技の金メダル最多獲得国となったのを受けて、数年前からイギリスで始まったサイクリング・ブームは、さらに加熱した感があります。ヘルシーなライフスタイルや環境意識の高まりを反映して、また通勤苦を回避するために、ますます多くの人が、趣味としてまたは通勤手段として、自転車に乗るようになっています。

日本でも、自転車は人気が高まっています。特に昨年の東日本大震災の後、このローテクな乗り物がいかに信頼性が高いかが注目されるようになりました。

自転車のアクセサリーを販売するイギリスのオンラインストア、Wiggle は、イギリスと日本で好調な売れ行きを謳歌しています。最近、私は同社のマネージャーの話を聞く機会に恵まれ、同社がこの人気の波に乗れたのは単なる幸運のめぐり合わせではなかったことに気付きました。
日本の顧客開拓にあたって重要な役割を担っている要因として、Wiggleでは、第一に日本人のカスタマーサービス担当者、第二に世界各地へのすばやい配送、そして第三に低価格を挙げています。これらの要因それぞれが、日本市場への扉を開くカギになったというのです。

Wiggleでは、日本に相当数の顧客がいると認識した当初、単純にGoogle Translateを使ってウェブサイトの英語を日本語に翻訳しました。その後、日本の顧客がさまざまな連絡をしてくるようになり、そのなかには訂正すべき日本語の個所を指摘するものもあったことから、日本語の話せる人を雇い始める必要があると自覚しました。
Wiggleは現在、日本語のネイティブスピーカーを5人、社員に抱えています。これらのスタッフは、ウェブサイトの文章を確認するだけでなく、電話とメールで日本の顧客に対応したり、マーケティング・キャンペーンが日本の文化的嗜好に即しているかどうかを確認したりする業務にも従事しています。

ウェブサイトに正しい日本語を記載することは、重要性が高まっています。以前に比べて日本の消費者は、海外のウェブサイトから商品を注文してPayPalなどの決済手段で支払うことに勇敢になっていますが、その一方で詐欺の被害に遭った人も多数いるためです。その結果、詐欺サイトかどうかを見分けるポイントの1つとして、日本語がおかしいサイトが警告されるようになっています。

迅速な配送は、もちろん日本国内のサプライヤと競争するうえで欠かせません。ただし、Wiggleでは、国外への製品販売を目指す他社へのアドバイスとして、国外配送を試みる前にイギリス国内の流通を確立することがきわめて重要だと強調しています。Wiggleのケースでは、日本に向けた相当量の販売を始めるよりも前に、国際空港に近い便利なロケーションに高度な倉庫システムを設置していました。

低価格については、円高の恩恵があるため、一企業の力ではどうにもできない部分があります。とはいえ、日本語を話せるカスタマーサービス担当者と配送網を確立した現在、為替が不利な方向に振れたとしても、それを乗り切るだけの忠誠な顧客がWiggleには付いているように、私には見えます。

もうひとつ、同社が日本の顧客ベースのロイヤリティを維持するうえで重要なカギを握る点として、日本人のカスタマーサービス担当者のロイヤリティを維持することが挙げられるでしょう。イギリスの会社が、日本の「難しい」顧客に対応するために日本語の話せる社員を雇っておきながら、その社員が顧客対応するのに必要なサポートと権限を与えないでいるというケースを、私はあまりにも多く耳にしてきました。

配送の遅れや品質の問題を「イギリスでは普通のこと」だと言って日本の顧客に納得してもらおうとするのは、たとえそのメッセージが丁寧かつ完ぺきな日本語で伝えられとしても、決して成功するアプローチではありません。

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