前回までの「理想」に関する話を読まれて、「そんな手間をかけなくても、行動目標だけでも結果は同じだ」と思う方もいるでしょう。しかし、まず理想にまで遡って考え始めるのには、理由があります。ご自分の中で腹落ちしやすいことです。日本語には「腹をさぐる」「腹がすわる」など、「腹」に関する表現がいろいろあります。理想と行動目標を読んで、体ですっきり受け入れることができたら、それは腹落ちしたということです。これができていると、ご自分が「好ましい」とした行動を、継続するためのモチベーションが生まれます。
理想と行動目標のつながりですが、これは他人に見せるものではないので、ご自分の中で腹落ちできていれば、それが一番です。これでいいんだろうか、と悩む必要はありません。
私の最近の例をご紹介します。アメリカの西海岸で勤めていた娘が、いったん家に戻ってくることになりました。それで困ったのは、彼女の眠る場所がないことです。私が娘の部屋を倉庫がわりに使ってしまい、ファイルするのが面倒な書類や、箱から出した書類の山がベッドの上にのっています。もう何が入っているのか分からない箱も、床に置きっぱなし。その書類の量を考えるたびにストレスを感じてしまい、その部屋に入ることさえできません。
なんとかしなければと思いつつ、半年がたってしまいました。そこで、私の理想を「娘に気持ちのよい部屋を用意する」と定義しました。娘の喜ぶ顔が浮かび、心臓のあたりがぽっと温まりました。次に、「現実的かどうかはさておいて、実現するためのアイディアは?」と自問しました。
ちなみにこれは、英語ではHow might I get myself to get there? です。コーチングの仕事では、How might you get yourself to get there? と尋ねます。以前はwould を使っていましたが、Warren Berger のA More Beautiful Question を読んで以来、might を使ってクライアントの想像力に訴えるようにしています。can/could やshould を使わない理由は、批判や評価に走りがちな心をオープンにしておくためです。might を使うと、「ひょっとして」や「なんちゃって」感が出て、思考が広がります。
さて私の部屋片づけのアイディアは、「最初からきちんとファイルしつつ片付ける」から「全部燃やす(捨てる)」と、その中間のアイディアを合わせ、6つほど出てきました。最初の「きちんと」とには、体が抵抗したのでボツに。半年見ていない書類は捨ててもいいようなものですが、それにもわだかまりを感じ、ボツに。最終的に採用したアイディアは、比較的気楽で作業の進捗に希望が持てるもので、「とりあえず、書類の量を減らすことに集中する」でした。
今度はそれを行動目標に落とし込みます。娘の部屋ではストレスを感じるので、両手で簡単に運べる程度の量をテレビのある部屋へ持ち込み、そこで「捨てる、リサイクル、ファイルへ」に分け、ファイルする分はいったん箱に入れることにしました。箱がいっぱいになったら、仕事部屋へ運び、ファイルします。ゆっくりとですが、作業は途切れずに進んでいます。
理想から逆算する行動目標づくり。よかったら、お試しください。
*河北新報にアメリカの日常に関するエッセイを書いています。ご興味のある方は、こちらへ。海外通信
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