
unicorn(ユニコーン)になろうと思うのならeat your own dogfood(自分のドッグフードを食べてみる)必要があるのか。growth hacking(グロースハック)をすることでcustomer acquisition cost(顧客獲得コスト)を抑えられるのか。stealth mode(ステルスモード)のうちからcrowdsource(クラウドソーシング)をしても良いのか。agile(アジャイル)でなければfail fast(フェイル・ファースト)することはできないのか。
これらの質問の意味が分かったかどうかは、スタートアップ業界の用語にどこまで精通しているかを測るちょっとしたテストのようなものです。スタートアップの世界には独特の語彙があり、あまりよく知らない人にとっては「ちんぷんかんぷん」に聞こえることもあるでしょう。でも、この世界で勝負してみようと思うのなら、こうした語彙を知らないでいると危険かもしれません。最近、私の友人が、投資家を前に起業家がプレゼンする「ピッチデー」に参加してきました。この時、ある起業家に対してベンチャー投資家が「あなたの考えているTotal Addressable Marketは?」と質問したそうです。Total Addressable Market(TAM)とは、到達できる最大の市場規模を意味します。けれども、この起業家はこの言葉の意味がまったく分からない様子で、言うまでもなく投資家をうならせることはできませんでした。
プロジェクトの資金調達を目的にシリコンバレーにやって来る起業家は、毎年数千人に上ります。その多くはすばらしいアイデアと情熱、それに立派なスキルを持っているのですが、この町の大物たちが使う独特の言葉を理解するところでつまづいてしまうことが多々あります。シリコンバレーの独自の言語は、ここで発明されたユニークなビジネスのあり方に慣れている少数の集団のなかで発展してきたせいです。
特にスタートアップ企業が資金調達しようとする際、すなわちエンジェル投資家やベンチャー投資家から出資を受けようとする際、この業界用語を知っておくことは重要です。きちんと下調べをして、ベンチャーキャピタルのシステムがどう機能するかを理解している、そして投資家にとって付き合いやすい相手であることを示すからです。それに、あなたがoff-the-grid(ネットワークに接続されていない)の起業家、すなわちシリコンバレーの物事の進め方に明らかに不慣れなスタートアップの設立者でないことを意味します。投資家からすれば、このような起業家を一人前に育てるには多大なメンタリングが必要になるため、手間がかかりすぎるのです。そんな相手にかまけている時間はないとばかり、多くの投資家は、たとえどんなに興味深いアイデアであってもそうした起業家の会社には出資しないことを選ぶでしょう。
私はスタートアップのために資金調達をしているわけではありませんが、20年前にシリコンバレーに引っ越してきた時は、当地の「おくにことば」に惑わされたものです。MBAを取得してビジネス経験を十分に積んでいたにもかかわらず、よそでは聞いたことのない新しい言葉に出くわしました。vesting cliff、total addressable market、network effect、back-channelなど、辞書を引いても出てこない言葉がたくさんあります。おかげで私は、スタートアップ業界用語についての解説本『シリコンバレーの英語 スタートアップ天国のしくみ』を書いてしまいました。
* This article originally appeared in Teikoku News.
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