Japan Times front page August 14 2020

渡航禁止令が阻む、日本の大学のグローバル化

このポストは2020年8月14日のジャパンタイムズ記事の和訳です。

京都大学の山中伸弥教授が幹細胞の研究によりノーベル賞を受賞した2012年、当時21歳だったエドビナス・チェルニアウスカス氏はこの分野に興味を持ち、すぐに日本に来て最先端で学ぶための計画を立て始めた。

山中教授のiPS細胞研究所で博士号取得に励むつもりで京都大学に合格し、文部科学省(MEXT)から奨学金が支給され、同氏の夢は実現した。

英国の幹細胞研究所を辞職し、4月に来日する準備のため母国リトアニアに戻っていたとき、政府はCOVID-19感染症を抑制するため旅行制限を課した。

それ以来、チェルニアウスカス氏は毎朝午前4時に起床し、京都大学が提供するZoomを介したリモートの日本語研修コースに参加している。このスケジュールは同氏の健康を損ない、体重は10キロ以上減った。

パンデミック中に留学生用の新しいビザは発給されず物理的に日本にもいないため、奨学金の給付金は給付されておらずもっぱら貯金を崩して生活費に充てている。

秋学期に来日が許可されるかどうかはまだ分からない。それまでに来日できない場合、同氏は生活するために就職することを余儀なくされ、日本へ来ることはあきらめざるを得ない。

最悪の場合、「幹細胞研究の可能性があった半年を無駄にして、財政的苦境に身を投じたことになってしまう」と同氏は語る。

同氏の経験は、今年日本への留学を計画していた何万人もの学生の窮状を物語っている。入国禁止令で苦境に追い込まれ、入国をいつ許されるか分かるまで待たされている間、留学生らの人生は中断されたままだ。

日本政府は、4月3日以降(日付は出国先によって異なる)に日本を出国した外国人長期滞在者および永住者の再入国を拒否する旅行制限を課した。8月5日、政府は指定された期日より前に出国した人々の再入国を許可し始めたが、その期日より後に出国した外国人居住者には引き続き制限が課されている。日本政府はまた、初めて日本への入国を希望する、留学生も含めた外国人に対する新たなビザの発給を停止しており、留学生らは行き詰っている。

チェルニアウスカス氏は、1983年以来政府が政策目標として掲げてきた、学生全体の国際化を目指す日本の取り組みにおける成功例になるはずだった。2008年には、2020年までに30万人の留学生を受け入れるという目標を掲げた。

この数はすでに上回っており、海外の学生に対する訴求力を高めるためにプログラムを展開・変更する大学の努力に対する政府の助成金がその理由の1つに挙げられる。2019年5月現在、日本の高等教育を受ける学生全体のうち7.8%を留学生が占めている。

大学生の年齢の日本人が減少するにつれ、このような留学生は日本の大学にとって魅力的な収入源となる。

キャンパスに外国人学生がいることで、日本人学生の環境も豊かになり、多様性が高まり、異文化交流の機会が得られる。

そして、チェルニアウスカス氏のように、世界中から優秀な人材が集まれば大学の研究能力を高めることが可能になる。卒業後も日本に滞在する留学生は、人材プールの縮小に直面し技術と外国語のスキルを備えた新卒者を採用しようとする日本企業にとって、潜在的な労働力の貴重な資源となる。

入国および再入国の禁止令、またその実施方法は、留学生にとって魅力的な目的地となりつつあるこの進歩を損なう危険がある。

先月、広島大学のカロリン・フンク副学長が、日本外国特派員協会のプレゼンテーションで指摘したように、「国際的な高等教育市場は非常に競争が激しい。」

大学には「学生が来日できない、またはいつ日本に帰れなくなるか分からないというイメージが確立されてしまい、この競争では勢いを失うだろう」と同副学長は述べる。

オーストラリアやニュージーランドなど、留学生における日本の競争相手である一部の国は、いまだ留学生を締め出している。とはいえ、シンガポール、米国(カリキュラムに直接指導の構成要素がある場合に限り)、台湾(中国からの学生を除く)など、秋学期に向けて新たな学生の入国を許可した国もある。韓国は学生の入国を許可してはいるが、韓国政府は学生が母国に留まり、秋学期の代わりにオンラインで学ぶよう奨励している。

文部科学省の留学生交流を担当する小田切美穂氏は、現時点で新入生がいつ入国できるか正確に答えるのは難しいと述べる。同氏は、文部科学省が政府の他の機関に向けて外国人留学生や外国人教員の重要性を説明し、早期の入国が許可されるよう尽力している、と強調した。

学生だけでなく、教員たちも旅行禁止の影響を受け、日本の大学にとって問題となっている。

青山学院大学の英米文学科で教えるアメリカ人のエリン・マクレディ教授は、研究旅行のため海外におり、この春は3ヶ月以上国外に足止めを受けた。同教授は今秋ヨーロッパへの招待をいくつか受けており、講演および共同研究のために旅行する資金をドイツの機関から受けている。

しかし、永住者であり家族がいるにもかかわらず、外国人であるがゆえに自由に日本を出入国できないため、行けるかどうかは定かではない。

現状では、研究活動が「非常に不安定で気がかり」な状況であると同氏は実感している。もし日本人であり、移動における同様の制限がない場合、問題にはならなかっただろうと考えている。

「ここ数か月間見てきたことを考えると、ここに移動して研究に取り組むよう人々に勧めるのは難しいと感じる。日本はとても協力的な研究環境なので、以前ならこんなことは言わなかっただろう」と同氏は語る。